★頂き物SS★

□[理性と本能]
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「しまった…」


バスルームで体を拭いた後、私は小さな声でそう呟いた。
体を拭いたバスタオル以外に、そこに何も置いてなかったからだ。
恐らく下着とパジャマを出してそのままベッドサイドにでも置いてきてしまったのだろう。
週に一回はやるドジである。

私は軽く頭を抱えてため息を吐いた。


「…どうしよう」


普段ならどうという事はない。
バスタオルを巻いてベッドにまで取りに行けばいいのだ。
だが、今日はそうも行かない。
何せ、今日は一人じゃない。

そう、バスルームを出た先には彼が待っているからだ。

究極の破廉恥王(私談)ラファエロが。

タオルを巻いて行こうが行くまいが今更な仲ではあるが、やはり乗り気ではないときというのは誰にだってあるもの。

だが、タオル一枚な格好で彷徨いて、獰猛な獣が放っておくはずはない。


「でも、気付かれなければ良いんだよね」


こちらだって気配を消す術くらい知っている。
だから気付かれさえしなければ、そんな浅はかな考えを起こした自分に、私は後になって後悔してしまう事になるのだが…


そうと決まれば、と私はバスルームの扉をそっと開ける。
隙間から室内を伺うと、ラファエロがソファに座ってテレビを見ている姿が目に入った。
そしてその向こうにあるベッドの傍らに、着替えが置いてあるのも。

さして広くはないこの部屋は、バスルームからベッドまで遠くて6mといったところ。
抜き足でもすぐである。

私は意を決めると音を立てないように扉から素早く抜け出て、小さく身震いをした。
まだ、肌寒い今の時期にバスタオル一枚は少々辛い。

だがぐずぐずしてもいられない為、私はラファエロが映画に熱中しているのを確認しながら、中腰でソファ後ろを通過していく。
そしてやっと着替えを手にしたところで、私は第二の失態をやらかした。


「っくしゅ…!!」


気が弛んでくしゃみが出てしまったのだ。
私は口元を押さえて、慌ててラファエロの方を見る。
小さな音であったが、彼がこれに気付かないはずはない。
当然、


「…何やってんだ、お前は…」


呆れたような、驚いたような顔でラファエロはコチラを見つめていた。
私は着替えを抱き抱えて、愛想笑いを返す。
彼が片眉を釣り上げ、ニヤリと笑った。


「随分、良い格好してんな」

「ご、ごめんね?すぐに着替えるから…」

「いーや、そのままで良いぜ?」


逃げようとする私を、彼は目で捕らえる。
ジッと見つめ、ソファから身を乗り出してコチラへ来いと手招きをする。

もうその目は本能の色を宿し、標的とした私を丸裸にする気で一杯なようだった。
でも、私もおいそれと従うわけにはいかない。

とぼけた表情を作ると、一歩横へと滑り寄る。
まだ彼が立ち上がっていない隙に、ソファの後ろを駆け抜けようとしたのだが。
それはあっさりと阻止された。


「逃げんなよ。追い詰めたくなんだろ」


彼は軽い身のこなしでソファの背を飛び越えると、駆け出した私の肩を正面から捕まえて行く手を阻む。

チェック・メイト

私はキングに取られてしまっていた。


「まぁ、座ったらどうだ?」


クイーンをとったキングが、得意満面な笑みで家主を差し置いてソファに促す。
少々解せないが、主導権が既に彼にある今、男女の駆け引きで逆らうのは野暮だというもの。

渋々と、ソファに戻ったラファエロの隣にちょこんと座ると、彼は少し上から私を見下ろして自分の膝を叩く。
ここに座れ、という指示である。


「こっち向きでな」

「えっ、な、何で…」

「いいから…」


彼の指示に戸惑う私をよそに、ラファエロは私の腰を掴んでその膝を跨がせる。
少し足を広げる形で座らされた態勢に顔を赤らめると、彼はそれすら嬉しそうに口を歪ませて胸元に口付けた。

その柔らかくて暖かな感触に、心臓が大きく跳ねる。
鼓動を早めた心臓に追いつくように深く息を吸い込むと、ラファエロの舌が喉まで這い上がり、首筋に軽く歯をたてる。


「、んっ…」

「気持ちいいか?」


彼は低く煽るような声でそう囁いた。
その声が私の中の理性をかき乱していく。
誘惑に駆られそうな本能と、まだ繋ぎ止めたい理性との葛藤の中、私は内から来る何かに耐えるように唇を噛んだ。

その間にもラファエロの指は私の身体を探るように触れている。
楽しむように、肩に触れ、胸に触れ、腰に触れて。
だが、身体に巻いたタオルを取る気配はない。
むしろその状態さえ楽しんでいる。

その繰り返される焦れったい愛撫の中、彼がやっと唇に触れた。


「ふ…っ、んんっ…!!」


噛みつくような荒々しい口付けに、呼吸は追いつかない。角度を変え、酸素も満足に与えられないまま、私たちはただ獣のように貪りあう。

と、脳が麻痺していくようなその行為の中、彼の手が私の秘部に触れ、私は一瞬身を引いた。


「やっ…」

「逃げるなって」


直ぐに彼が腰を押さえつけ、座らせている自身の足を左右に開いて、閉じようとする足を無理矢理に大きく開かせる。
顔に熱が集中し、身体が熱くなるのがわかった。

目の前のラファエロが私を見上げて、舌を覗かせ舐めるような仕草をする。
猥褻な行為を連想した私が顔を更に赤くして視線を逸らすと、彼は低い声で笑って耳元に唇を寄せた。



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