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□Beloved faithful dog
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彼はとても律儀だ。
私がどんなに愛していると言っても、ありがとうございます、と笑うだけだったし、どんなにベッドに誘っても、何やかんやと理由をつけて決してベッドに上がらなかった。
そんな彼を意地らしくて可愛らしいと思う反面、どうしてもたまに寂しくなって、皮肉も込めてこう呼んでやるのだ。
「忠犬」と。



…Beloved faithful dog



「セバスチャン、良いものをあげよう。」
「はい?」
ヴィンセントがガウン姿でベッドに寝そべりながら声をかけると、先程飲んだ紅茶のポットを片付けながらセバスチャンが小首を傾げる。
こっちにおいでと手招きするとぱたぱたと走り寄ってきて、ヴィンセントは顔には出さないがその可愛らしさに内心気が気でなかった。
「知り合いのアクセサリーデザイナーがたまには注文してくれって煩いから、試しにひとつ頼んでみたんだよ。」
「はぁ…」
「私の趣味ではないんだけれど、思ったよりよく出来ていたから。プレゼントだよ。」
はい、と言って無造作に枕元から取り出して首にかけられたのは、チェーンを模した銀のネックレスだった。
真ん中にはプレートが下がっていて、ご丁寧にV.Phantomhiveと名前が彫られている。
「あの、旦那様のお名前が入っておりますが…」
「ああ、そうそう。そういうところが嫌なんだよ、彼のデザイン。頼むと絶対どこかに名前を入れられるから…」
うんざりだという表情で、ヴィンセントはごろりと横になった。
仰向けになると、上からセバスチャンが困ったように覗き込んでくる。
その困った顔がやたら可愛いので、あいつもなかなか役に立つじゃないかと普段蔑ろにしていた知人に珍しく感謝した。
「似合うよ、セバスチャン。」
よしよし、と頭を撫でてやると、セバスチャンは顔を真っ赤にして口を結ぶ。
「首に私の名前の入った鎖なんて着けていると、まるでうちのペットみたいだね。」
ペットにしては随分毛並みが良いけど、とヴィンセントは笑った。
「私が子供の頃、犬を飼っている親戚がいたんだよ。その犬が凄く立派でね。頭が良い上に従順で、こんな犬を飼っている親戚が本当に羨ましかった。」
相変わらずヴィンセントは執事の頭を撫で回しながら、楽しそうに話す。
「犬種はね、確かドーベルマンだったかな。まぁ人から貰ったと言っていたから定かではないけど…毛が黒くて艶々していてね…素晴らしかったなぁ…」
名前を知りたい?
唐突に尋ねられ、セバスチャンは頷くしかない。
例え興味がなくとも、主人との会話を自ら断ち切るなど、己の美学が許さなかった。
「良い名前だったよ。私も犬を飼ったらこの名をつけようと決めていた。美しく、賢く育つように…」
ヴィンセントはにっこりと笑ってセバスチャンの頬を指先で撫でた。

「ちゃんと、その通りに育ったよねぇ?“セバスチャン”?」

カチャリと“首輪”を後ろから引っ張られて、“犬”は一瞬息を詰まらせた。
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