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□過去拍手文
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「うわぁーん、ごめんなさいー!」



またやってしまったミスに、必死になって謝る。
呆れ顔でセバスチャンが後片付けをし、自分は大人しくしていろと言われた。
本当に好きで失敗してる訳じゃないし、壊すつもりだって全くない。

ただ軽く触れただけで、皆壊れてしまうから…

この屋敷に来た当初、それが当たり前で何故叱られるのかが理解できなかった。
優しく扱えといわれて、優しくとは何か考えた。
いくら考えても分からず、頭がショートしそうになっていた毎日。




「全く、どうやったらここまで破滅的に失敗出来るんですか」



「えー、普通にしてただけですよ?」



そう至って普通にしていただけ。
それについてはセバスチャンは何も言わず、せっせと枯れ果てた草を取り除いていた。

自分でいう普通にしたら、何にも触れられないというのは分かっている。
けれどどうしても、力加減が分からない。


でもそんな中唯一
普通にしても大丈夫なものがある。
それは自分にとっていうのならば大切な宝物のようなもの。
懐いてくれた青い小鳥は撫でるだけで動かなくなってしまったのに、大切なそれだけは大丈夫。




「ふう、こんなものですかね。フィニ、これを運んで下さい」



「え!僕が運んでいいんですか?」



「ええ、貴方が薙倒した木ですし…重いので適任でしょう」



ただ振り回さないように。
しっかり釘を指されるが、涙と鼻水で汚れた顔のままセバスチャンに飛びついた。
身長の割りに細い腰に思い切り
だがなんて事もないように、溜息を吐いて早く仕事をしろと言葉を投げる。

今回もっと怒られると思っていただけに、さっと離れ木を軽々と担いで走り出す。
後ろでセバスチャンが何か言っていた気がするが、何故か嬉しさが込み上げて振り返らず行ってしまった。




「あ、そっか」


なんで大切な宝物なのか、やっとハッキリした。
自分の…自分たちの失敗をいつも叱りながらも、結局後片付けは全部してしまう
有能な執事

セバスチャン・ミカエリス



「そっかぁー…えへへ」



自分にとって嫌な事のない、この屋敷
主人でもあるシエルは守ると誓った。
その傍にはいつもセバスチャンの姿があって、いつも間にか目で追うようになっていた。
前につい力加減など忘れ飛びついた時、ハッとして身体の奥が冷えていった。
壊してしまったかもしれないと、慌てて飛び降りた。



『加減というものを覚えなさい、全く…私だからいいものを』



至って何ともない様子で、自分を叱りそのまま去って行った。
そのときからかもしれない。
壊れないからこそ、自分にとってはすごく大切な宝物なんだと彼をそう思ったのは

壊れてしまうと、自分は見失ってしまうから。
目に見えるものしか、分からないから


ああ、どうしよう胸の辺りがドキドキしてる





「セバスチャンさーん!」


結構離れた場所にいたセバスチャンに、まだ声は届くだろうかと大声で呼ぶ。
庭を修復中だったらしいセバスチャンは、フィニの声に反応する。




「僕!セバスチャンさんが―



大好きです!!
そう続けたかったのに、振り返った瞬間抱えていた大木は屋敷にめり込んだ。
パラパラと破片が散り、砂煙が舞う…。
そのままの状態で固まっていると、遠くに見えるセバスチャンは眉間に手を当て俯いていた。




「…何をやっているんですか、先程『木を持ったまま振り返るな』と言ったでしょう」



深い溜息をついて脱力する。
いらぬ仕事ばかり増やされ、正直もう面倒だと思い始める。




フィニの初恋?


もし初恋なら、実らない可能性が大きいのかもしれない…





END
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