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□君が生まれた日
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「雪、だな」


「雪、ですね」



シエルとセバスチャン、二人が見つめるのは窓の外。
去年は雪が降ると言っても、多少で景色として楽しめたのだが…
窓は外と中の温度差で雫が伝い、窓の向こうは白。



「吹雪か」


「はい、記録的な大豪雪になるそうです」


「…そうか」



外へ出れば一瞬…は大げさかもしれないが、ほんの短時間で自身が雪だるまになる自信がある。
それくらいの猛吹雪だ。
何故か使用人共は大はしゃぎで、この吹雪の中に消えていった。
殺しても死にそうにないから、特にそう言った面での心配はしていないが…。
こちらに被害が出なければいいという、思いはあった。
スネイクに至っては、冬眠といっても過言でない程動かない。
蛇は仕方がないが、スネイクも蛇扱いでいいのだろうか…流石に冬眠はしていないが
一日中寝そうな勢いなのを、セバスチャンに起こされ仕事を必死でこなしている。



「坊ちゃん、温かい紅茶でも用意いたしましょうか」



「ああ…頼む、こう寒くては仕事もろくに出来ん」



身体の中から温まりたい、そう思わせるような天気だ。
暖炉を焚いていても、窓の近くは冷気が漂い寒い。
ぶるりと身震いすると、シエルは窓から離れた椅子へと腰掛ける。
エリザベスがプレゼントだと渡してきたブランケットを羽織、書類を手に取る。
今日ばかりは窓際の事務机で作業する気には、全くなれなかった。

…しかしこのブランケット、ピンクという配色の為非常に目が痛い。
温かいから使っているが、そうでなければ極力目に入れたくもない。
流石にプレゼントされた物を無碍に出来る筈もなく、エリザベスの前で拡げて笑顔で礼を言ったが…。



「…アイツこの吹雪で大丈夫か?」


忙しい時期の中、絶対に予定を空けているエリザベスだったが
今年はそうもいかなかったようで、半泣きになりながらシエルに手を振っていた。
短時間だけの誕生日パーティーを楽しめたのは、エリザベスにとっては嬉しいのだろう。
前と違い誕生日という日を嫌い、遠ざける事はなくなったのだから…。

そこまで考え、まあ大丈夫なのだろうと思う。
この日に大切な誰かを失うのは、もう沢山だ。
だからだろう、エリザベスも無事に帰ると強調して言っていた。
セバスチャンも特に何も言わなかった、だから大丈夫だ。





「入れ」


部屋のドアをノックする音が響き、入室の許可を出す。
セバスチャンが紅茶の用意をして戻ってきて、ワゴンを押しながら入って来た。
そこでふと、甘い香りが漂うのに気づき顔を上げる。
ワゴンの上には、いつものティーセットだが…



「…いつもと違うのか?」



「嗚呼、気づきましたか」



ニッコリ微笑みながら、手早くお茶の用意をする。
シエルはコーヒーより紅茶派だ、だが香るのはコーヒーの豆で…。
嫌いという訳ではないが、セバスチャンがわざわざ出してくるのは何か理由があってなのだろう。
書類を端に避け、背凭れに身を預ける。



「エリザベス様のブランケット、使われているんですね…よく似合ってますよ」


「うるさい、それより一体何なんだ」


何、とはその飲み物の事だ。



「少し興味深い事を教えていただきましたので」



小さく陶器の音と共に、シエルの前に置かれたカップ。
シエルがそれを見れば見慣れぬ物体。
いや、飲み物だというのは理解できるが…
カップの中には細かく泡だった淡い茶色に、中心に白い泡のようなものが…。




「何だこれは」


「カプチーノ・キアロです。少々キャラメルを加えてます」


「…ああ、ミルクが多めなのか」


だが態々紅茶ではないのか、見た目は確かにいつもと違い新鮮ではあるが…
セバスチャンの動作をボーっと眺めていると、何かを取り出しカップの上でなにやら手を動かす。
手が離れた下のカップには、先程までとは違い可愛らしい模様が描かれていた。



「…これは?」


「今日は坊ちゃんの誕生日ですから、私からは形に見える愛情というものを作ってみたのですが」


気に入りませんか?と、小さく問いかける声に、ただそのカップを眺める。
可愛らしいハートの描かれたそれは、どこか胸をいっぱいにしてくれる。
そもそも何を隠そう、セバスチャンと自分は恋仲だ。
そんな相手からのこのサプライズが、嬉しくない筈がない。



「いや、気に入ったに決まっているだろう」


そんな事を言われてしまうと、飲むのも勿体無い気がしてならないのだが…。



「坊ちゃんが生まれてきた日は、私にとっても大切ですよ」


普段から見せる笑顔ではなく、シエルにしか見せない柔らかいもの。
ほんのり頬を染めて言うなど、不意打ちもいいところだ。
誕生日という日が、楽しみな日になっていく。
外が凍えるような吹雪で、天気は最悪ではあったが
とてもいい日だと、シエルは思う。
大切な思い出の一つになったなと、セバスチャンを手招く。

近づいて来た所を、そっと耳元で囁きかける。
案の定真っ赤になったセバスチャンに、満足気に笑うとそっとカプチーノに口を付ける。




『夜はまた、違うプレゼントがあるんだろう?』




今日は甘い一日になりそうだ―…








END
間に合わせのシエル誕生日話!
とは言いつつも、何日も前から少しずつ書いてたんですけどね;
…最近上手く話しつくれません><
それより、カプチーノってこの時代まだありませんよねw?
 

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