MAIN2

□苛めたくなる君
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「シエルぅー!!!」


「こら!リジー抱きつくな!!」


きゃっきゃうふふと楽しそうに庭で戯れるのは、我が主シエルとその許嫁のエリザベスだった。
二人は婚約者であり、決められたとはいえ互いに嫌な感情は一切ない。
エリザベスにいたっては、大好きすぎるオーラがだだ漏れだ。
毎度来ては全てを可愛らしく着飾り、我侭を通し…
それでも全てシエルを想っての行動で、中々に鋭い洞察力もお持ちである。
常にそれを出してくれればいいというのに、わざとかそうでないかは知らないが普段はただの女の子。だ


楽しそうに遊ぶ二人に、セバスチャンは溜息を吐きトレーを見下ろす。
昨夜食べたいと言っていた、生クリームたっぷりのシフォンケーキ
傷んでしまうからと、少し時間を見て持ってきたのだが…
この様子ではその判断はどうやら間違っていたようだ。
楽しそうに遊ぶ様子から、すぐにお茶の席にはついてもらえないかもしれない。
生憎今日は日差しが強く、気温がある為
庭でのお茶は細心の注意が必要となる。
それにシエル自身の体調にも気をつけなければならず、セバスチャンはまた一つ溜息を零す。




「セバスチャン!」


「っあ、エリザベス様?」


「シエルがもうバテちゃったから、お茶にしたいんだけど…どうしたの?少し顔色が悪いわ」


心配そうに見上げてくるエリザベスに、苦笑して大丈夫だと言う。
ふらふらと後ろから歩いてきたシエルに、ホッとする。
どうやらこれでお茶は無駄にならずに済んだようだ。
ケーキを食べながらも談笑を交わし、楽しそうな二人の姿をさり気なく見ないようにポットへと視線を移す。
当たり前の光景なのに、何を今更…

ああ、それでもやはりモヤモヤする
だがそれを顔や態度にしてしまっては、執事失格だ。
思わずポットを握る手に力が入るのに、慌てて力を抜く。
フィニではあるまいし、割ってたまるか













「じゃあねーシエルぅー!」


「あ、ああ…またな」


使用人全員(タナカを除く)疲労困憊、そしてシエル自身も疲労は相当なものだろう。
その原因が今漸く帰り、静かになった屋敷には使用人三人の死体もどきと生き残っている三人だ。
色々と片付けなければならない仕事が山積みで、セバスチャンは溜息すら吐く元気もなかった。
それに…と思い出してしまい、ふつふつと湧き上がるのは確かな感情で…



「私は片付けがありますので、失礼しますね。ご夕食にはまた―…」


「セバスチャン」


「……なんですか?」


さっさとこの場を去ってしまいたいのに、引き止められてしまった。
勿論それを強引に振り切るなど、執事としてはあるまじき事。
いささか不機嫌そうな声になってしまったが、シエルは気にした様子もなく…
いや、何故か寧ろ嬉しそうな様子に訝しげに見遣るしか出来ない。
ついにはMに目覚めたのかとも思ったが、それならばこのSっぽい目で見つめては来ないだろう。



「リジーの相手は疲れるが、やはり可愛いものだな」


「……そうですね」


「拗ねたところも可愛いが、やっぱり僕的には僕自身に向けられた笑顔が可愛いと思う」


「……そうですか」


段々と機嫌が急降下していくのを感じる。
何が言いたいというのか、婚約者自慢ならば出来れば後にして欲しい。
そんな本音など言えるはずもなく、ただただ相槌をうつだけ。



「あの、もう…行っても?」


「話したりん、もう少し付き合え」


「…はあ」


椅子に腰掛けニヤニヤと笑みを浮かべ、先程と同様にエリザベスへの可愛らしさを語り始めたシエルに
セバスチャンは無性に泣きたくなった
悪魔だというのに胸が痛み、目頭が熱くなる
こんな見苦しい様は見せたくないというのに…必死に堪えるも、シエルの語りは止まらない。



「まるで捨てられた子犬のように寂しそうな目で見つめておきながら、いざ構ってやろうとすると不貞腐れたように見向きもしない」


「……」



「だがやはり構って欲しくて、自分だけをみてほしいなんてオーラを振りまいている、そんな可愛い奴だ」


そこまで聞いていると、違和感を感じる。
エリザベスは今日は終始笑顔でいたし、ずっとシエルと共にいたから寂しいなんてことはない筈だ。
そこでふと、シエルを視線が絡む
先程より人の悪そうな笑みを浮かべ、セバスチャンに屈むように命令を下す。



「そんなお前だから、僕は苛めたくてたまらなくなるんだぞ?」


「…ぼ、坊ちゃん?」


屈み込んだ瞬間、両頬を挟まれ
チュっと音を立て、子供の戯れのようなキスをされた。
真っ赤になりながらも、言われた言葉を頭の中で必死に理解しようとする。
そこでやっと、先程まで語られていた惚気は自分自身だったのだとセバスチャンは理解した。



「確かにリジーとは婚約者だが、愛しているのはお前だ、セバスチャン」


「う…こんな時ばかり仰るんですね」


「何、嫉妬する可愛い恋人を見たいが為に今日リジーとは楽しく過ごしたんだ。こういう時に機嫌取りしておかないと…」



もっと苛めたくなるだろう?


そう耳元で囁かれた瞬間、セバスチャンはバッと身を離し距離をとる。
はくはくと口を開閉させ、真っ赤になったままシエルを涙目で睨む。



「坊ちゃんなんて知りません!」


そのまま脱兎のごとく走り去った。




「…くっ、本当アイツは飽きない奴だな」



その姿を見送って、シエルは笑う。
その可愛らしい姿に、嫉妬されるのも楽しいものだと思う。
実に可哀想ではあるが、その可哀想なのがまたセバスチャンが余計可愛らしく見えるのも悪い。
シエルは涙目で走り去ったセバスチャンを、どう慰めるか考える。
その表情は愛しい者を思うものでもあり、何かを企むかのようにも見えた―…





「私が、私が嫉妬なんて…そんな、坊ちゃんは……わざと、グス」



厨房の隅っこで、縮こまっているセバスチャン
今夜辺りにもっと苛められるのを、まだ知る由もない。






おわり
だっー!!
月見酒さまいかがでしょうか!嫉妬もの、嫉妬…嫉妬、こんなので大丈夫でしょうか!?
なにやら嫉妬というより、シエルのセバスチャン苛めみたいになってます@@;
クレームは月見酒さまのみお受け致します
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