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□押しに弱いのです
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忙しく働く毎日の中で、気づけば傍にいたり視線を感じたりする。
それに酷く安心する自分がいて、昔だったならば信じられない変化だろう。
柔らかい物腰や、笑顔にはいつもドキドキしてしまって…。
傍にいる事が本当は大好きで嬉しいというのに、すぐに赤くなる顔や上がる心拍数につい避けがちになってしまった。

そう…何を隠そうこの屋敷の家令であるタナカと、恋人同士なのだ。



「…私らしくもない」


「どうかしましたか?」


「っ!!!」


急に掛けられた声に、ビクンと肩を跳ねさせてしまう。
すぐ傍にまで来ていたというのに、気配すらも気づかないとは…
必死に平静さを装い、後ろを振り返る。
勿論声で分かっていたが、そこにいたのはタナカだった。



「あ、その…」


「…ああ、そうでした」


「?」


いつもならば出てくる言葉が出ず、詰まってしまう。
だが決して嫌な空気ではなく、寧ろ砂糖菓子のような甘さではあった。
何を言おうと迷っていると、タナカがポンと手を打ち何かを思い出したように話だす。


「いいお茶菓子が手に入ったのですが、坊ちゃんの口には合わなかったようでして」


「え、あ…はあ」


「いい新茶もありますから、一緒にお茶にしましょう」


「はあ…えっ」


つい返事をしてしまったが、つまりは二人でお茶をしようと…二人っきりになるという事で。
このままでは自分の心臓が痛い(ドキドキして)ので、何とかやんわりと断りたいところだ。


「タナカさ…ん」


「業務でしたら心配いりませんよ、今日の分は全て終わらせてあります」


「えっと」


「坊ちゃんがベルを鳴らさない限り、私達の仕事は今のところありませんよ」


ニッコリと、それでも言葉を遮られ断れない。
その遮りも決して嫌なものではなく、だがこのままでは二人っきりに…
内心焦っていると、タナカがセバスチャンの両手を手に取る。
その温もりに、思わず赤面する。



「私とて、愛する方と過ごしたいと思うのは当然なんですよ?セバスチャン」


「た、タナカさん」


「貴方の事ですからね、嫌だという理由でない事は分かっていますよ」



さあ、落ち着いて深呼吸してごらんなさい
優しい声色に、少しずつセバスチャンは落ち着きを取り戻す。



「さあ、行きましょうかセバスチャン」


「はい…」


手を握られたまま、タナカの部屋へと向かう。
心臓が痛い、けれどその痛みは心地いいもので。
手からじわじわと伝わるぬくもりに、やはり安心してしまう自分がいる。
なんとなく避けてしまおうとした自分に、後ろめたさを感じてしまう。



「お茶菓子が手に入ったら、必ずセバスチャンを呼びますよ」


「え?」


「そうしたら、二人でお茶をしましょう」


ニッコリと微笑まれ、セバスチャンは赤くなりながらもタナカを見返す。
頭を撫でられるという、子供に対するような行為でも
むず痒いほどに嬉しく、堪らなくなる
ふわりと笑みを浮かべると、タナカが嬉しそうに笑う。



「やはり、貴方にはこんな風に笑っていてもらえるのが私の幸せですね」


何よりも、セバスチャンの笑顔が好きなのだと…。
そう言われてしまえば、セバスチャンがもう逃げられる筈もない。
忙しい合間をぬって、こうして時間を作ってくれる
それがどれほど嬉しい事か、タナカは分っているからしてくれるのだろう。

こんな風に想ってくれるというのに、自分勝手な理由で避けようとしてしまったことが恥ずかしかった。
思えばこの苦しいくらいの鼓動だって、嬉しいからであって決して苦ではなかった。



「私の部屋に行きましょうか」


「はい」


ならばもう迷う必要なんてない
誘われるがまま、セバスチャンはタナカの後を着いて行く。















「しっかし分かんねぇもんだなー」


「何がですかー?」


「あの二人だよ、一体何歳差って事もねーのにラブラブってよぉ」


羨ましい限りだ、ああ見えてアッチはお盛んってかーなどと、笑いながら一人喋っていると
フィニがバルドの後ろを見て、あ。タナカさんこんにちはーなんて暢気は声が上がる。
バルドはその笑った表情のまま、固まった



「ほっほっほ、バルドもまだまだ若いですねえ…」


「あ、いや、その…」


「恋愛に年齢は関係ないものですよ?それに、今だからこそ楽しめるというのもあります」


恋愛は時折駆け引きを用いるのが、飽きないというもの。
セバスチャンがタナカ以外を見るという事はないが、それでも少なからず不安というものはある。
だからこそ、タナカは常にセバスチャンを見ていて
対応を変えるのだ。
押してダメなら引いてみる、とあるが
セバスチャンの場合は、引いてしまうと向こうが逃げてしまうので押す一方がいいのだ。
遠慮しがちな恋人を持つ者ならば、押せ押せしかない…ということだ。



「へ、へえ…」


「貴方もいつかそれくらいの洞察力は身に付けるべきですよ、バルド」


好きになった相手にサヨナラを告げられて終わる、なんて事がないように。



「では、私はセバスチャンが待っていますので失礼しますぞ」


「わかりやっした!」


終始笑顔のままのタナカに、バルドは敬礼を構え後姿を見送った…。






「押せ押せ…ねえ」


ポツリとバルドが呟いたのは、広い廊下に消えた―…









おわり

っかー!!!
甘々になっているのでしょうか!?大丈夫でしょうか?
雅さまの望むタナセバになっているでしょうか´`
勢いで書いてしまったので、変な処もあるかと思いますが…
雅さまのみクレームを受付いたします
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