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□無題
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ココ最近、色々となくなるモノがあるんですが・・・




「…ない?」


ポツリと呟いた言葉は、静かな室内に漏れ…誰に聞かれる事もなく消える。
セバスチャン・ミカエリスは、眉間に皺を寄せ顎に手を宛てる。
だがこうして考えようとも、思い当たる事もなければ別段困る事でもない。
ただ支給品だから、出来れば大切に扱いたいのだが…。



「セバスチャーン」


「っと、どうかされましたか?アロイス様」


走り寄ってくる足音と、腰への軽い衝撃。
昨日からファントムハイヴ家へ客人として、泊まっていたアロイスだった。
スリスリと腰に顔を押し付けてくるのを、やんわりと引きはがす。
んもうつれないなーなんて言葉は、無視だ



「特に用事なんてないけどね、目の前に俺好みの尻があったから抱き付いただけだよ」


「し…、はあ、クロードは一緒ではないのですか?主人を一人に―…」


言いかけた言葉を止め、思わず固まる。
いきなり背後から抱き締められ、手がイヤらしく胸を這う。
こんな気配を悟らせず、背後に周りそしてこの手つき
出来る人物など、今この屋敷にいるのは―…



「クロード、何をしているんですか」


「あは、俺が頼んだんだよ。でも…ちょっとその触り方は気に食わないけど」


くるりと身を翻し、ダンスでも踊るかのように楽しそうに歩き出したアロイスに
ただ?を頭に浮かべ、その背を見つめる。
いつの間にかクロードはアロイスの隣に並び、何かを差し出していて…
それを手に受け取ると、セバスチャンに見えるように掲げる。



「セバスチャンのネクタイ、欲しいなって思ったんだよね、んーいい匂いっ部屋戻ってオカズにするよ」


「旦那様、それは仰られないほうがよろしいかと」


「いーじゃん、クロードは今セバスチャンに触れたんだからこれはあげないからねー」


胸元を触れれば、先程まではしっかりと締めていたタイがない。
クロードの手つきと、アロイスにばかり気がいっていたせいで抜き取られた事に気付いていなかった。
笑いながら去っていくアロイスに、自分がどう見られているか漸く理解し身震いする。
すると隣にいるクロードと目が合い、瞬間悪寒が走る。

クロードの目は、欲を孕んでいて…それが見つめる先は、自分だ。



「あ、の…蜘蛛主従は」


思わず溜息を吐かずにはいられない。
しかし、とも思う。
セバスチャンが冒頭でも言った、なくなったもの…とは。
洗濯に出した筈のネクタイ、しかも洗濯前。
メイリンがまた運ぶ際に落としたのかと思っていたが、先程のような事があると…
疑わしくて仕方ない。




******


メイリンに無駄かとは思いつつ、確認をしてみれば。
珍しく覚えていたらしく、洗濯する為に運んだときはあったらしい。
だとすれば、本格的に怪しさが増した。

それでも仕事が待ってくれる筈もなく、忙しく業務をこなす。
窓の下にバルドとフィニの姿が見え、サボっているような様子に眉間に皺が寄る。
注意をするべきか…と思い、窓を開け―・・・




「そいつぁセバスチャンのネクタイじゃねーか、どうしたんだソレ」


「風でひらひらーって飛んでたんで、捕まえてみました」


「あー・・・それで、あそこの木が折れてんだな」


二人の視線の先を辿れば、庭の隅の木が折れて倒れていた。
とんでいたネクタイを取るのに、木で落としたのか・・・その思考回路一度頭を解剖して見てみたいものだ。
そう思いながら、別に変な意味でネクタイが消えた訳ではないと分かり肩の力を抜く。



「セバスチャンさんに返さなきゃって思うんですけど、何となく返し辛くて」


「はあ?何でだよ」


「んーよく分からないんですよ。セバスチャンさんのって思うと、こう・・・ドキドキする感じがして」



その言葉に思わず耳を疑った。
まさかフィニがそんな変な方向に育っていっているなんて、思いもしなかった。
これでは先程の蜘蛛主従みたいな将来が待っているのではないだろうか・・・
そうなると、待っているのは自分の平穏には程遠い未来でしかない。

ここは一つ、フィニを更正させるべきだろうか・・・



「あーでも俺も最近やっちまったんだよなぁ」


「えー?バルドさん何したんですか?」


「セバスチャンのには内緒だぞ?実はアイツが作ってた生クリーム俺が食っちまったんだ」



声を掛けようとしたところで、バルドの思わぬ告白。
・・・あのなくなった生クリームは、バルドが犯人だったのかと頭痛がしてきた。
てっきりフィニか、シエルが待ちきれずつまみ食いでもしたのかと思っていたが・・・



「わーいいなあ、僕も食べたかった」


「俺だって生クリームだけ食べるつもりはなかったんだっての」


・・・アイツが味見として、舐めたの見てたらちょっと・・・










「・・・・・・」


セバスチャンはボソリと呟いたバルドの言葉に、何も言わずに窓を静かに閉じた。
暫く窓ガラスに閉めたままの状態で、項垂れる。
今の発言で、思いっきり疲れが出た。
重苦しい溜息を吐かずにはいられない、溜めていた息を吐き出し―・・・


「ひっ!」


急に感じた項への、熱い風。
肩を竦め、後ろをゆっくりと振り向けば・・・。
何故ココにいるのか全く分からないが、女王陛下の執事であるアッシュがいた。




「お久しぶりです、セバスチャン」





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