MAIN2

□影響力大
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「セバスチャン、付き合え」



その一言で、セバスチャンは業務を放り出す事になり。
仕事が溜まるというのに、こうしてシエルの遊びに付き合う羽目になった。
チェスの相手がいないからと言って、仕事が滞れば文句を言うくせに…
悶々と考えながら、駒を動かす。

何でも万能とは言われるセバスチャンだが、弱点がある事をシエルは知っている。
今とてチェスなどと…と考え相手をしているセバスチャンに、内心笑いがこみ上げる。
ゲームの天才だと言われようとも、シエルは人間相手は悪魔。



だからこそ―…




「チェックメイト」


「……坊ちゃん」


「チェックメイトに変わりはない、僕はチェスに付き合えと言っただけだ」



そう、イカサマだ。
悪魔は嘘を吐かない、命令しない限り普通に相手をしてくるだろうと考えてこれに付き合わせたのだ。
案の定、セバスチャンは普通に相手をしそしてイカサマしたシエルの前に敗北した。

ニヤリと笑ったシエルに、セバスチャンは嫌そうに顔を顰める。



「さて、セバスチャン」


これに、着替えて来い。
そう言って手渡したソレに、セバスチャンの頬が引き攣る。
その様子を見て、シエルは楽しくて仕方がない…笑いを我慢しヒクつく頬を抑えるのが精一杯だ。
恨めしそうに一度見やり、セバスチャンは早足に部屋を出て行った。

シエルはセバスチャンがドアを出て行ったのを確認し、タナカを呼ぶ。
セバスチャンはどうせ葛藤だか何だかし、時間が掛かる。
その間に家のことをタナカに任せておかなければならない
気づかれれば、セバスチャンに妨害されかねないのだから。




「タナカ、今日一日屋敷を頼むぞ…特にあの3人を頼む」


「かしこまりました、坊ちゃん…」


「なんだ」


「楽しんで来てください、屋敷の事はお任せを」



タナカはそういい残し、一礼すると部屋を出て行った。
言われなくてもそうするつもりだ。
しかし流石だと思う、何も言っていないというのに何もかも知っている。
やはりそこは年の功というやつだろうか…





「よく似合っていじゃないか」


「…」



突っ立ったまま沈黙したセバスチャン、厭味やら反撃すらする元気はないらしい。
セバスチャンに渡した物は、女性物の衣装だ。
どうしても男のラインが目立つ部分には、布を持ったりと工夫が施され。
パッと見背の高い女性に見える
それも素のまま着るのが屈辱で堪らないのか、薄化粧までしているらしい。
このご時世、女性が足を出すというのは極めてはしたない事だが
それでも両サイドに入れたスリットから覗く足は、艶かしく男を誘うものだ。
いくら禁欲的にと見せて、はしたないだと言いながらやはり視線はそこへと誘われてしまうものだ。

大胆に晒すのではなく、チラチラと見えるほうがいやらしく見える。
ふるふる震えながら、俯く姿は庇護欲さえ感じるものがある。
例えそれが怒りから震えているのだと、理解していても。



「タナカに馬車の手配をしてある、行くぞ」


「え!?」


「なんだ、着せただけで僕が満足するとでも思ったのか」


ハッと鼻で笑えば、整った顔を不快そうに歪める。
拒否は出来ない、それを理解しているからこそ
セバスチャンはただシエルの言われるがまま、遊ばれるのだ。
半ば自棄になりつつ、シエルの一歩後ろを着いて来る。
それは従者としてであり、今のセバスチャンに望む位置ではない。
セバスチャンはシエルの前を歩くか、後ろに着き従うようにしか傍にいない。



「何をしている」


「え?」


「その格好で僕の後ろを歩くな、惨めにさせるつもりか?」



女性に一歩後ろを歩かせる、それは…
セバスチャンもそこは理解したのか、言葉につまりゆっくりとシエルの隣に並ぶ。
だがチラチラと視線を送ってくるものだから、訝しげに何だと問いかける。



「ですが私が並びますと、坊ちゃんが余計小さく―…ひんっ!」


「黙って歩け」


問いかけておいてなんだが、いらない事を言おうとしたセバスチャンの尻をわし掴み黙らせた。
流石に屋敷の玄関を抜けてからは、先程のような事があっても嫌だと黙り込んでいた。
馬車がすぐそこに停められ、御者がドアを開けて笑顔で迎えた。

セバスチャンは必死に不自然にならない程度に俯き、さっさと馬車に乗り込む。
いつもならばシエルを先に…だが、今は格好は女性順位はセバスチャンが先だ。

シエルが乗り込んだのを見、御者はドアを静かに閉め声を掛けると馬車を走らせ始めた…。






「何処に向かわれるんですか?」


「ただの田舎町だ、仕事も一段落したからな…休養みたいなものだ」


「私のこの格好は…?」


「気にするな、とりあえず男だとバレる振る舞いはするなよ?」



背凭れに身を預け、ふう…と一息つく。
セバスチャンはといえば、シエルの言葉に「バレるなんてヘマはしませんよ、私はファントムハイヴの…」なんて、いつもの台詞をその格好で言うのに抵抗があるのか一人慌てふためいている。
その様子を横目で楽しみつつ、目的地に着くのが楽しみで仕方ない。





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