MAIN2

□邪魔はさせない
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その他大勢が利用する施設だからといって、特別待遇がないという訳ではない。
多少値が張る(といっても、一般家庭的にはかなりのものだ)が、シエルは惜しみはしなかった。
食事時になれば、人が多くなりいつも満席の店の一部を貸切にしたのだ。
そうとは知らないセバスチャンは、エスコートされるままに予約していた席に座らせられる。

アトラクションや、中央の湖が一望できるテラス席だ。
快晴ともあって、その景色はより一層綺麗に写る



「すごい良い席が空いてましたね」


「そうだな、気に入ったか?」


「勿論です、何よりシエルとこうしていれるのが一番嬉しいです」


特に意識した訳でもない、その言葉にシエルはうっと息を詰まらせる。
言った本人は、景色を楽しんでおりそんなシエルには気づかなかった。
そろそろメニューを持って来させるか…と、シエルが店内を見遣り固まる。
遠くに見えるのは厨房内の、銀髪…見間違える筈がないアッシュだった。
事もあろうか、メニューを手に此方に来ようとしているではないか。
シエルはサッと責任者の男に目で訴える。

責任者の男は、メニューを手筈通りに持っていくつもりだったが
シエルの視線に、奥を覗きアッシュの行動を知る。
慌てて他のスタッフに取り押さえさせ、引っ込ませる事に成功した。



「……」


それを見て、やっとホッと息をつく。
きっとアッシュは店から追い出され、とりあえずこの店での妨害は防げたと思う。
その後すぐに食事を始め、セバスチャンとの楽しい…



「ちょっとクロード、本当に此処に来てる訳?」


「ええ、間違いありません」



こ の 声 は!!!

セバスチャンがデザートの、フォンダンショコラに蕩けているのを確認し
バッとテラス下の通路を見た
二人連れの男……何かと突っかかってくる、バイト先の先輩…アロイスだった。
恐らくその隣は、金持ちであるアロイスの専属家庭教師だった男だろう。
勉学を終えても、こき使うのが好きらしくアロイスはまだその男を雇っていたと言っていた。

ついでに言えば、セバスチャンの写真を見せたらイイ反応をしたとも…。

くそ、コイツ等も邪魔をするつもりなのか!



「…ル、シエル」


「っ、あ…なんだ?」


「温かいうちに食べないと、冷めてしまいますよ?」


そう言って、シエルのフォンダンショコラをフォークで掬うと…


「はい、どうぞ」


「……」


「…シエル?」


まさに…はい、あーんというやつだ。
あまりの感激と驚きに、ただ呆然とそのフォークに乗ったデザートとセバスチャンを交互に見る。
きゃあきゃあという黄色い声が聞こえ、ちらりと横を見れば女性陣が熱の篭った目で見てきていた。
だがここで拒否すれば、この雰囲気はぶち壊れる。
それにセバスチャンとて、多少なりとも傷つくだろう。



…欲求に素直になって、周囲を気にせず遮断する事にした。









「あぁああ!!私だって、セバスチャンにあーんってされたいというのに!あの子供がっ」


放り出されたアッシュは、離れた所から双眼鏡で見て
周囲に人がいるのも気にせず、ただ叫ぶ。
その様子は怪しい人物に他ならない訳で…



「ちょっといいですか、そこの貴方」


「え?何ですか、邪魔しないでいただけー…」


「不審者として管理室までお願いできますかな」



ガシっと両腕を二人に掴まれ、アッシュは身動きできなくなる。
そこで漸く周囲の人間が避けるように歩き、警備員に取り囲まれていたのに気づく。
冷汗が伝うが、それでも連行されるのは嫌だ…


「わ、私は愛しい人が不埒な輩に無理強いをされているのを見ていただけでっ」


「貴方の見ていた方向にはカップルしか見当たりませんが?」


「そっそんな訳ないでしょう!?貴方の目は腐っていんじゃありませんか!ちょ、離し…」



わめくアッシュの訴えなど、聞く耳を持ってもらえる筈もなく。
ただの空しく憐れな人間と判断され、周囲が見守る中警備室へと連行されていった。



「あ、見て見てクロード!あいつ見苦しく叫んじゃって最高に面白い見ものだよ!」


「あれは…ああ、そうですね。憐れな男の末路というやつか」


「何か言ったー?」


「いえ」



クロードはアッシュを知っていた。
勿論セバスチャンに纏わりつくその他大勢のうち一人として、リストアップされていたのだ。
だがアロイスには細かく教えていないので、ただのバカとしか見ていないが…

しかし…と、クロードの眉間に皺が寄る。
後になるよ?すっごーい深ーい、この皺面白いとか言って指で突いてくる(かなりの力で)
アロイスを気にせず、ただ思う。


ここにセバスチャンが、あの邪魔者とデートに来ているという情報は得たものの。
この広さといったら、見つける事も容易くはない。
海に落ちた針を探すようなものだ…



そんなクロードだが、まさか真上から見られているとは思わなかった。








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