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□二兎追うものは一兎をも得ず
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主人に仕え、主人の望むように動く。
魂を代価に契約を交わした…、最期のその時まで―…


同じように人間との契約で、同じように執事と言う立場に身を置く悪魔
惹かれたのは何故だったか、偶然かそれとも必然・・・?






「こんなに頻繁に抜け出して、貴殿の主人は何も言わないのですか?」


「坊ちゃんが…?子供は子供らしく、既におやすみの時間ですが」


「……」




確かにシエルならば眠っていてもおかしくはない時間
セバスチャンもだからこそ、この時間にこうして屋敷を抜け会いに来ているのだろう。
だがいくら子供だ、人間だからといって楽観視しすぎているのではないか。

そう思い無言でセバスチャンに視線を向ければ、何かを含むような視線を返される。
思わず苦笑が漏れ、視線を外した。



「勿論、私のご主人様は起きていますよ?」


「とんだ性悪を好いたものだ」


「それは、我が主?それとも―…



優しくそして残酷に言葉を紡ぐその唇を、クロードは呼吸さえも奪うように口付け塞ぐ。
くちゅりと音を立て、唾液を流し込めば素直にそれを感受する。
はしたなく唾液を溢す様子にさえ、煽られるのはこの抱いた感情のせい。

欲望に忠実なのだから、仕方がない。



「ん…、ふふ」


「何が可笑しい?」


「私も大概ですが、貴方はどうなんですか?」



蜘蛛の糸に絡め囚われ、逃げようとしないも餌。
偽りの名を語り、偽りの立場にいる人間…クロードの主
アロイスは何がなんでもクロードを傍に縛りたい、何故ならば



「一途で可愛らしいんじゃないですか?」


「…少なくとも貴殿よりは可愛げというものがあるな」


「そう、ですか。何にせよこれはただの欲求、人間でいうならば遊びというものなのでしょうね」


スッと身を離し、クロードから距離を取る。
その姿が儚く映り、抱き締めたいと言うそれを必死に抑え隠す。
アロイスを少なからず思っているのは事実ではあるが、セバスチャンに抱く想いと比べてしまえばそれはほんの小さなものに過ぎない。
遊びと言う単語に、僅かばかり反応してしまう
だがそれに気付かれた様子はなく、内心息を吐く。



『俺の傍にいてよ、クロード』


傲慢で、上から物を見る普段から打って変わり
弱く儚く、それでいてクロードを必死に求めるアロイス
その手を振り払うほど、クロードはその小さな存在をその程度とは見ていなかった。
想うはセバスチャンでありながら、アロイスを完全に餌と見限れないでいる。
そんな優柔不断さと、どちらも得ていたいという強欲さに呆れる。




「そろそろ寂しがっているんじゃないですか?貴方のご主人様は」


「……貴殿こそ」


「ええ、私はそろそろ帰りますよ」



闇に溶けるように消えた姿に、クロードもまた夜へと消える。









誰もいなくなった筈の屋外で、セバスチャンはただ一人空を見あげる。
憎らしい程に澄んだ星空が広がるのを、歪んだ笑みでただ見上げるしか出来ない。

あまりにも人間くさい悩みであり、愚かしい事この上ない。

触れた箇所が熱い、もっと触れていたい触れて欲しいという欲望が沸き上がる。
だがそれは叶う事がないのだと、自分に言い聞かせる。
例え互いに魂を食らうという、契約を果たし終えた後だとしよう
きっと恐らく、その時にはこの想いは薄れてしまっているのだろう
障害ががあるからこそ燃えるというものが、まさにコレなのではないだろうか…。
今だからこんなにも恋焦がれている、まるで悲劇のヒロインになり、浸り物事を楽しむのだ。



「私、は…」


それでも、だがそれでも…
今この瞬間抱く想いは紛れもなく事実なもので、感じる痛みというものが
まさに人間と同じように、傷を作るものだというのに変わりはない。

クロードが今頃屋敷に戻り、アロイスを腕に抱くのだと考えるだけでまるで心臓に刃物を付き立てられているかのような痛みを感じる。
じくじくと痛む胸を握り締め、無様にその場に座りこむ姿はまさに人間そのものだった。







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