MAIN

□受難は続く
1ページ/3ページ




いつもと変わらぬ朝を迎え、いつものように時が過ぎるものとばかり思っていた。
例え何か起こるとしても、それはファントムハイヴ家という名からして毎日が必ず平穏になるとは限らない。







「…くそ、夢見が悪い」


珍しくセバスチャンに起される前に起きたシエルは、早々に悪態をつく。
目覚めは最悪そのもので、苛々とする気持ちが胸の中で燻る。
暫く両手で顔を多い、俯いていたが―…



「何だ、簡単な事じゃないか」



ニヤリと笑みを浮かべる







*****

セバスチャンはゾクリと背筋を走った悪寒に、眉を顰める。
こういった嫌な予感だけは絶対に外れない事を、身を持って知っている。
思わず両手で腕を擦るが、何か変わるわけでもなく…


「…はあ、何もなければ…いいんですけど」


そう呟いてみるが、きっと叶わないだろう。
朝食の仕込を済ませ、懐中時計を開いてみればそろそろシエルを起す時間になっていた。
紅茶を準備し、カンパーニュとスコーンを用意する。
嫌な予感にザワザワとする胸の奥を無視し、手を休めない。


シエルの部屋に入り、いつものようにベッドを見遣れば、そこは蛻の殻・・・
ただ気配に異常もない事から、嫌な予感が当たったのだと内心深い溜息を吐いた。



「いっ!」


急に感じた衝撃に、思わずよろめきベッドに手をつく。
後ろにいたのは勿論シエルで、今の衝撃の犯人が彼なのだというのは明確。
一体何がしたいというのか、膝裏を何かで押された拍子に両手で尻を押されたのだ。



「・・・おはようございます、坊ちゃん。朝から何をするんですか」


「おはようセバスチャン、何僕の目の前にデカイ奴が視界を塞いでいたからな」



どけたまでだ。
それがどうしたとばかりの態度に、イラッとくるが。
ここでどう言おうとも、シエルはあの態度を崩さないだろう。
無駄に時間を使えば、この後の業務に差し支える。



「早く紅茶を淹れろ、ベッドでいつまで僕に尻を向けているつもりだ・・・ツッ込むぞ」


「…少々お待ちくださいませ」


このクソガキと言ってしまえたら、どれだけいいことか。
サッと身を起こし、ワゴンを引いて中に入る。
ベッドに座っているシエルに、紅茶を手渡せば素直に受け取る。
また何か言われるのではと構えるが、その気配はない。
少しホッとして今日の業務を述べていると、シエルの笑みが深くなった。


「セバスチャン」


「・・・はい」


「今日の午後の予定だがな、急遽エリザベスが来る事になった」


ぷちパーティーがしたいそうだ。
ニコリと笑みを浮かべたシエルに対し、セバスチャンはただヒクつきそうになる頬を耐える。
つまりは今日の業務に加え、エリザベスの為の準備をしなければならないという事で…
この様子からして数日前には決まっていた事らしく、それが余計腹立たしい…。

だがそんな不満を言える筈もなく、ただ頭を垂れるしか出来ない。
嫌な予感はやはり当たったのだと、気づかれないように溜息を吐いた。










「・・・これで終わりだと思うなよ、セバスチャン」


セバスチャンが退室し、一人になったシエルは不敵に笑うとそう呟いた。
やはり苛々する時は、セバスチャンで解消するのが一番スッキリする。
そもそもの今の気分の原因は、他ならぬ・・・



「・・・まあ、いいさ」


シエルは椅子に腰掛けると、机に積まれた書類を目にし、溜息を吐いた。
仕事をする気分ではない、それにしたとしても碌な判断が出来そうにない。
そうなれば、と

立ち上がるとさっさと部屋を後にする。

向かうは厨房、ホールの飾りつけなどセバスチャンには朝飯前の事だろうから。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ