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□受難は続く
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厨房に近づけば甘い香が漂い始め、スイーツ関係のものを作っているのだろうと判断する。
厨房の外ではバルドが暇そうに壁に寄りかかり、ダレていた。



「あれ?坊ちゃんじゃねぇですかい」


「バルド、大方セバスチャンに追い出されたといった所か?」


「あー・・・まあ、そうですね」



ぼりぼりと頭をかいて、苦笑する。
シェフだというのに、料理が殆ど消し炭なのだからまあ仕方がない。
いつもならば、シエルもその意見に賛同するが今は・・・

ニヤリと笑みを浮かべ、バルドを見遣る。



「僕が許可する、お前もセバスチャンの手伝いをしろ」


「へ!?い、いやっ」


「大体いつまで経っても仕事が出来ないというのも困る、今回は大きなパーティーでもない」


ならば、この機に仕事を教えてもらって来い。
そう告げれば、明るくなって厨房へ踊る勢いで入っていった。
当然セバスチャンの怒声が響くが、バルドが僕の指示だと告げれば黙り込む。
その時丁度入口に差し掛かった僕と、視線が合った。



「本当に、許可されたんですか?」


「ああ、いい加減バルドにも覚えさせておいた方がいいと思うぞ」


「・・・」


眉間に皺を寄せ、嬉しそうに道具を眺めているバルドを見て・・・シエルに視線を戻す。
セバスチャンとしても、邪魔以外の何者でもないし
失敗されて時間が掛かり、もし万が一完成したものを台無しにされても困る
内心はそんな所だろう



「その程度できなくて、ファントムハイヴ家の執事は務まらないんじゃないか?」


「・・・・・・そうですね」


今の会話で一気に疲れたとばかりに、セバスチャンは溜息をつく。
そしてシエルに再び視線を向け、出て行くように促してきた。
主人が厨房などに来るものではないし、バルドが万が一爆発させたとして
それに巻き込ませる訳にはいかない、そんな所からだろう。
ソレに対しては素直に従い、任せたと一言残し厨房を後にする。


セバスチャンの苦労が増える度に、シエルの機嫌が直っていく。



その後も、メイリンに態々頼み事をしたり。
フィニに庭の一部に花を植えるように任せたりと・・・。
尽く失敗をしまくる使用人ズに、セバスチャンはしなくていい仕事まで増える始末

エリザベスの来訪と、パーティーの開催
並べられたスイーツに、エリザベスだけでなく使用人ズも目を輝かせる。
エリザベスが使用人達も是非参加して、皆で楽しいパーティーにしたいという事から
いつもは仕事が終わってからしか食べれない食べ物に、喜んでいる。




「セバスチャン、お前も食べてみろ」


「いえ、私は―・・・」


「そうよセバスチャン!仕事をしなくちゃいけないのは分けるけど、一口くらい食べたっていいと思うの!」


断ろうとした矢先、エリザベスがそう笑顔で言ってくる。
勿論彼女に悪意はなく、ただ単純な気遣いからだろうが・・・
今日のシエルの行動からして、それは悪事に加担した人間にしか見えない。
礼を述べ、シエルからシュークリームを受け取りかじる。

笑顔でごちそうさまでしたと告げ、仕事に戻りますとさっさと踵を返した。






「・・・なんだ、つまらん」


「どうしたのシエルー?」


「いや、なんでもない」



シエルの渡したシュークリームには、クリームは少し残りはバルドの失敗した塩辛いクリームだった。
だがきっと見えないところで、口でも濯いでいるのだろうと思えば面白い。





















「今日は忙しい日だったな」


「そうですね、ところで坊ちゃん」


「なんだ」


既に寝る体勢になり、灯りを消すだけの所でシエルに声を掛ける。
何が言いたいのかなんて、解かるくせに態々聞いてくるのだが・・・


「今日は一体何がご不満だったのですか?」


「・・・お前が浮気したからだ」


「はあ!?」


身に覚えのない事を言われ、セバスチャンは思わず声に出してしまう。
だがシエルは真剣な眼差しで、うっと言葉に詰まる。
知らぬ間に、シエルにとって浮気と思われるような言動を取ってしまったというのだろうか。
眉尻を下げ、情けない表情になるがどうしようもない。



「坊ちゃん・・・あの」


「大体お前は僕の夢に出てきたと思ったら、アグニとソーマとイチャつくわ、バルドとキスをするわ、挙句の果てにフィニと一緒のベッドで寝るから僕とは寝れないとほざいて」


「は?」



ふん、この浮気者が!
そういい残し、シエルはさっさとベッドに潜り込んだ。
すぐ寝付いた様子に、唖然としたままセバスチャンは固まっていた。
ふるふると身体が震えるのは、寒いからではありません。

夢が原因で八つ当たりされ、苦労させられたことに対し怒りを覚える
勿論それをシエルに当たる事が出来る筈もなく、スクッと立ち上がりさっさと部屋を出て行く。






静かになった部屋に、シエルの溜息が零れる。



「・・・まるで子供じゃないか」


そうは思っても、気に入らないものは気に入らなかったのだ。
明日はうんと甘く接してやろう、きっと気持ち悪がって何かを企んでいると悩むのだろう。



「ふん」


セバスチャンの受難は、続くらしい






END
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