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□happy birthday
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「おはようございます、坊ちゃん」



「・・・ん」


カーテンを開けられ、明るい日差しが差し込む眩しさに眉間に眉を寄せる。
正直暖炉に火が灯してあるといっても、このままベッドに篭っていたい
体温でぬくもったそこは居心地がよく、その外は思わず身震いする程寒い。



「本日の予定は―・・・まだ、寝ていらっしゃいますね?」


「・・・・・・」


「まあ、寒い朝ですから分からなくはありませんが・・・」


ボーっと身をセバスチャンに向けたままでいると、呆れたように笑われる。
普段であればそんな顔をされれば不機嫌になってしまうだろうが、今はまだ頭が覚醒していない。


「坊ちゃん、紅茶が冷めてしまいますよ」


「んー・・・ぁあ」


「仕方ありませんね」



布の擦れる音で、頭が少しずつハッキリしてくる。
光が遮られたと同時に、柔らかい感触と頬に触れるくすぐったい何か・・・。
急に意識がハッキリし、思わず目を瞠る。
何かが触れた頬を手で覆い、セバスチャンを振り返る。

小首を傾げきょとんとした表情から、妖艶な笑みを浮かべ笑った。



「なっ、な・・・お前!今っ」


「どうなさいました?坊ちゃんが言われたんですよ、朝の挨拶はこれにしろ・・・と」


もうお忘れですか?と笑うが、シエルはそれどころではない。
あのセバスチャンが、素面でこういった事をするのは滅多にない事だ
それも100回に1度くらいの確率が、いきなり何でまた・・・
確かに冗談で朝の挨拶はキスをしろとは言ったが、本気ではないしセバスチャンも冗談として受け止めていたはずだ。
まあ少しばかり本音があったのは確かだが・・・

くそっ、何も寝ぼけている時にするとは・・・



「坊ちゃんの目も覚めた事ですし。本日の予定ですが―・・・」



スラスラと今日の予定を読み上げながら、モーニングティーの準備をしている。
・・・先程のやり取りで時間をロスしたとか思っているな、コイツ
読み上げると言っても、当然既に頭に入っている為手帳も何も必要はない。
無駄のない綺麗な動作で、温かい紅茶がカップに注がれる。



「―・・・以上です」


「・・・ん?あの煩いヤードが午後最後の予定じゃなかったか?」


「ああ、本日は都合が悪いと明後日に延ばしていただきました」


そうか、と呟いて手渡されたカップに口をつけ・・・
眉間に皺を寄せ、ジッとセバスチャンを見上げた。
何か?と胡散臭い笑顔を浮かべるが、先程の台詞が引っかかりを覚える。
延期にとは言ったが、まるで此方の都合が悪く伸ばしてもらったような言い方で・・・



「おい・・・」


「はい、なんでしょう」


「今日の午後、何かあったか?」


わざわざセバスチャンが予定を取りやめにする程だ、しかも自分に何の相談もなく、だ。
頬に手を宛て小首を傾げる、何だ女の真似か・・・どこまでも馬鹿にしている。
だがその行動を気持ち悪いとは思えない自分がいて、溜息が溢れそうになる。



「・・・まだ、お分りになりませんか?」


「・・・」


少し眉尻を垂れ、寂しそうな声色。
それが演技だと分っているというのに、つい後ろめたさを感じてしまう。
それがセバスチャン相手だからこそだが、それより・・・
今日は本当に何があるというのか、全く分からない。
だがこのままでいれば、当然馬鹿にされるのは目に見えている。
珍しくセバスチャン自身が、忘れているであろう自分に呆れの色を見せていない。

・・・仕方がない、降参だ



「・・・何だ」


「まあ、坊ちゃんの事ですからそうだとは思いましたが・・・」



ベッドに腰掛けるシエルの足元に跪き、そっと見上げてくる。




「Happy Birthday  My lord」



「・・・今日、だったか」


「あまりご自分の誕生日を好いていないのは分ってます、ですが―・・・」



貴方が産まれてきた事を、私は感謝いたします。
そう告げたセバスチャンに、不覚にもときめいていしまう。
いい意味として捉えてしまうのは、仕方のない事で。
見上げるその表情が艶やかしい事この上ない、それも上目遣いと。



「・・・何だ、夜はサービスでもしてくれるのか?」


「坊ちゃんが望むのであれば、今日は存分に楽しんでいただけるよう努力致しますよ?」


「ぐっゲホッ」


余裕がないのを悟られたくないと放った言葉は、あっさりと返され思わず紅茶で咽る。
顔が熱いのは気のせいだ、嬉しそうなセバスチャンの周りに花が飛んでいるのも幻覚だ・・・しっかりしろ、シエル・ファントムハイヴ!

そうだ生まれてきたのだって極上の魂云々だ、嬉しいに決まっている
最高の魂が将来食えると約束されているのだからー・・・
くそ、言ってて虚しくなってきた。



「坊ちゃん」


「・・・なん、むぅ!?」


唇に押し付けられた柔らかいソレ、視界いっぱいに映るセバスチャン
キスをされているのだと気付き、混乱していた思考が落ち着いてきた。
離れようとした所を、後頭部に手を回し今度は自分からキスをする。
ビクッと身体が跳ね、驚いた様子だったが素直にそれを受け入れる。



「・・・は、ぁ」


「濃厚なキスでの目覚めは最高だな」


今更過ぎるかもしれないが、その台詞を吐き捨てる。
顔を赤くしたセバスチャンに、どこの乙女だと内心突っ込みながらも特に何も言わない。
時間も時間だ、シエルの着替えをしながらその熱を冷ますようだ。



「朝食は軽めでいい」


「畏まりました」


何だかお腹がいっぱいになった気分で、そういえば背後で返事が返る。
朝食までの時間を昨日残してしまった書類を読んでしまおうと、部屋を出ようとし―・・・




「坊ちゃん、私は魂の為だけに貴方の傍にいるのではありませんよ」


「―っ、ふん」



扉が閉じる寸前聞こえた言葉に、思わず振り向きそうになる。







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