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□包み込む温もり
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「おはようございます」


「……は」


いつもより多少早い時間に自力で起きたシエルに、笑顔で朝の挨拶をしてみる。
予想通りの間の抜けた顔に、セバスチャンは気分が晴れていくのを感じる。



「え、坊ちゃん?」


シエルが離さなかったから何も準備が出来ていないと吐き捨てようと思ったのだが、急に予想外の行動に出たシエルに慌てる。
昨夜の状態ならば分るが、寝起きの行動にしては可笑しい。
シエルはセバスチャンの胸に再び顔を埋めていたからだが…



「あの、坊ちゃん…」


「お前、いい匂いがするな」


「は?」


すぅーっと思い切り空気を吸い込む音がし、そういえば昨夜もそんな呼吸音が…
ふとそれが自分の匂いを嗅いでいたと分り、思わず顔が熱くなる。



「すごく、落ち着く…」


「あの…くすぐったいのですが」


「黙って大人しくしていろ」


ぎゅっと抱き締められ、これは諦めるしかなさそうだとセバスチャンは溜息をこぼした。
思わずシエルの背を撫でると、不機嫌そうな顔で見上げてきた。
何気持ち悪い行為をしているとばかりの表情に、セバスチャンも流石に引き攣りそうになった。



「・・・…そろそろ朝食など準備を致しますので」


「ふん。さっさと行け」


「失礼致します」


モーニングティーをすぐに淹れて来ると一言残し、セバスチャンは部屋を出て行った。
シエルは一人ベットの上でゴロリと寝返りをうつ。
眼前に出した手をゆっくり開いたり閉じたりし、先程の感覚を思い出す。
酷く心地が良く、そして温かかった。
心を落ち着かせることが出来る香りが、まさかあの悪魔からするとは思わなかった。

昨夜の失態は、朧気ながらも覚えている。

だがそれでも、あの悪魔…セバスチャンの行動は命令外の事だろう



「参ったな、手放したくないなんて…」


アレに触れるのも、触れられるのも自分だけでいいとさえ思ってしまった。
シーツに染み込んだセバスチャンの香りを、胸いっぱいに吸い込んでふと思う…

…何だか変態になった気分だ。

そう一瞬思ったが、別にセバスチャン自身の容姿を考えればおかしな事ではないと思い込む事にする。






それから2年後、この時思いもしない関係を持つまでになり
仕事を除けば好き勝手してるようなものだった。



「思えばあれがきっかけだったな」


「何がですか?」


「……僕が匂いに敏感になったのがだ」


ああ、あれですか…。
度々擦り寄ってきたかと思えば、匂いを確かめる始末。
普段の高飛車な態度を見せているとは思えない仕草に、度々セバスチャンは驚かされる事があった。

段々それがエスカレートして行ったかと思えば、まさかこうなると誰が予想できよう…



「セバスチャン」


「…はい」


「足りない」


ぎゅっと抱き締められれば、夕食の準備が…とは思うが諦めるしかない。
前までは一寝入りすれば離れられたのに、今は離れるとすぐに起きてしまい余計に抱き締めて来るので諦める。



「可愛い恋人の願いくらい叶えたらどうだ」


「はあ、可愛いですか」


「…まあ、お前の方が可愛いな」


特に、アノ時は―…と囁けば真っ赤になって黙りこんでしまった。
大人しくなったセバスチャンを抱き締め、匂いを堪能する。

幸せを感じるなんて、過去の自分なら思いもしなかっただろう…。



この存在を…死ぬまで離すつもりはない






END
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