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□どうしようもなく
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主人と、執事…つまりは主従関係であるのは一般的に見て確かだ。
それも仕えるべき主人は、まだ10代前半といった世間で言えば子供。
そして執事はというと、執事という位に立つには些か若すぎるのだが
全てにおいて立ち振る舞いは、ベテランでも舌を巻く程だ。

そんな主従二人なのだが、所謂『恋人』という関係になっているのは極僅かな人しか知らない。
言ってしまえば同性で、身体の関係までいくとしたら…と想像されるのが嫌で隠しているようなものかもしれない。


外見で言えば、執事が男役…と言えるが実際はその逆だというのも一つの理由と言える。




「…」


ふと目が覚め、まだ暗い部屋の天井が目に入った。
主人…シエルが横を見れば、そこには珍しく寝ている自分の執事であり恋人でもあるセバスチャンがいた。
昨夜は隣で寝ろと言った覚えはないのだが、気持ちに気づいたのかセバスチャンから一緒に寝ていいかと言ってきた。
当然答えは決まっていて、それでこの状況なのだと改めて思い返した。


確かに女ウケする顔立ちだとは思うが、実際は余計な男まで引き寄せているのには気づいていないようだった。
男女問わず魅了する悪魔だが、シエルにとっては愛しい存在に変わりない。
社交界の場では、よく外で待たせている事が多いのだが…


『いい男よね…見惚れるくらい』


『何処の家の仕えなのかしら』


自分の男にしたいだのなんだの、セバスチャンを見かけた女性はそんな会話に花が咲く事が多かった。
それを聞く度に、シエルは眉間に寄りそうになる皺を必死に隠していた。
仮にも滅多に出ない社交界の場、どうしても出なければならない時にそんな表情でいては良くない事ぐらいは理解している。



「どちらかと言えば、妻の位置になるな」


ボソリと呟いてみるが、その方がしっくりくるのに苦笑する。
家事全般完璧で、主人に対する気遣い…どれも良妻そのものだと思う。

シーツに散らばるサラサラとした艶のある黒髪を指ですくっては、軽く絡めて見たりと遊んでみる。
くすぐったかったのか、瞼が僅かに震えた。
起きるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
普段寝る事もなければ、気配に敏いセバスチャンだがこうしているとそれが嘘のように感じる。



「ん…」


「っ」


セバスチャンは身じろぎした為、手を離すが…
シエルの胸の位置に頭を寄せ、擦り寄ってきた。
早まる鼓動に、無性に掻き抱きたくなるのを必死に堪える。
なんだこのカワイイ生き物は…
甘えてくるような仕草に、シエルは顔が火照ってくるのを他人事のように感じた。



「セバスチャン…」


折角だからと、腕を回してそっと抱きしめてみる。
普通の人間よりは低い体温だが、それでもそれが心地いい。
優しく撫でていると、シエルの服をぎゅっと握ってきたようだった。
思わず息を呑むが、そっと静かに吐き出した。



普段何気なく、セバスチャンが言っている言葉を思い出す。
惚れた弱み…セバスチャンは、シエルに惚れたのだといっていた。
思えば何もかもセバスチャンからで、シエルからは特に何もしてやっていなかったと思う。
だが今だからこそ言える、きっと恋をしたのは自分の方が先だったのだと。



「死ぬまで手放す気はないからな」


「……ぼっちゃ…ん」


「…」


ぎゅっと抱きしめて囁けば、寝言だろうかタイミングが良すぎる。
そっと視線を腕の中にいるセバスチャンに向ければ、ほんのり頬を染めて見上げてきていた。


「起きて…」


「その、最初からという訳ではないんですが…」


「いつからだ」


思わず声が低くなるが、それは別に怒っているという訳ではない。
セバスチャンもそこは理解しているのか、苦笑していた。
ただ聞かれたという事が、恥ずかしかったから



「最初に、抱きしめられた時にです」


「……なんだ、なら服を握ってきたのはお前の意思か」



ニヤニヤと笑みを浮かべていってやれば、セバスチャンは再び胸に顔を埋めてきた。



「…たまには、甘えてみたかったんです」


目が覚めたら、愛しい人の腕の中にいたのだから…



「言っておくが、擦り寄ってきたから抱きしめただけだからな」


「え」


「最初から、甘えてきていたぞ」



無意識にも、自分を求めてくれていた。
その事実に恥ずかしさもどうでもよくなって、赤くなっているセバスチャンをからかう。



ああ、どうしようもなく


愛しい




END

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