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□我儘なご主人様
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「おい。あれはどこだ」


「此方にございます」





「明日に孤児院の子供達を招待する事になった、大まかな事はまかせたぞ」


「はい(明日…)」





あれをしろ、これをしろ
そんな我侭をいつも聞いて、それでも無駄なく仕事をこなす毎日
別に人間とは違って、睡眠も何も必要はないのだから病気など無縁
そもそも寝込む悪魔など聞いた事もない訳で、シエルは好き勝手セバスチャンを扱き使っていた。
何かあれば厭味を含めた会話をしてくるのだから、それの仕返しも含めているのだが…





「…どういう事だ」


ポツリと呟いた小さなそれ、だがしかしそれを聞き逃す事のないタナカは苦笑しながら答える。

『セバスチャンは体調崩しました、本日は代理で私が』

セバスチャンが、体調不良?

…悪魔なのに?



「タナカ今日の予定は―…











シエルはセバスチャンの部屋の前で、ジッとドアを睨み付ける様に立っていた。



「別に、心配な訳じゃない…そう、あいつが弱った姿を笑いに来ただけだ」


自分に言い聞かせるように呟いて、ドアノブに手を掛ける。
軋む音もなく開いたドアを抜け、殺風景な部屋に入った。
ベッドには滅多に見ないふくらみ…
いつもならば(そもそも寝込む事自体ないが…)ここで、何かしら反応が返ってくるというのに…


「…」


ベッドを覗き込めば、多少寝苦しそうに眠るセバスチャンがいた。
普段のすました表情ではなく、ほんの少し上気し赤くなった頬
息遣いも少し荒い…まあ見るからに、人間でいう風邪の症状のようだ



「…ぼ、っちゃん?」


「起きたのか」


意識を別に飛ばしている間に、どうやら目が覚めたらしい。
シエルがいる事と気づかなかった事に驚いたのか、目を見開いて瞬きが普段より多かった。
掠れた声に、なんとも言えない気分になるがそんな事は今はどうでもいい。



「どういうことだ」


「…恥ずかしながら、人間でいう風邪のようなものでしょうね」


「悪魔もなるものなのか?」



起き上がろうとしたセバスチャンを手で制し、そのままで会話を続ける。



「……原因は、まあ分かっているんですが」


「…なんだ」


「………魂不足でしょうね、それに加え命令の行使する分余計消費しますので…」


食い散らかすのは飽きたと、極上の魂のみを求める。
それはシエルの契約終了時まで、言ってしまえば飲まず食わず状態と同じ
消費の早い理由がシエルの我儘な命令のせいだというのは、この際おいておく。

つまりは自分の魂がなければ、ずっとこんな状態という事なのかとシエルは眉間に皺を寄せる。
そんなシエルに、セバスチャンは苦笑し軽く首を振る。



「まさか倒れる程までとは思っていませんでしたので…、明日までには何とかします」


「何だ、治せるのならさっさと治せ…僕はタナカに予定を変更してまで来てやったのに」


「…おや、使用人ごときにお優しいことで」


うるさい。と一言投げつけ、シエルはため息をついた。



「…聞くが、どうやって治すつもりだ」


「多少いただいてくるだけです」



死神が邪魔なので、少し面倒ですが…と。
それを聞いたシエルは、自分の機嫌が急降下したのを他人事のように感じていた。
ゆっくり起き上がりベッドと抜け出ようとしたセバスチャンの肩を掴むと、そのまま押し倒した。
目を瞬かせて、きょとんと見上げてくる紅茶色の瞳に幾分か気分はマシになった。



「坊ちゃん?」


「駄目だ」


「は?」



治せと言っておきながら、治す為の行動をするなと言われ…
何がしたいのか理解できず、セバスチャンはただ困惑するしかない。
シエル自身は色々と思う所もあるのだが、それを言葉にするのは…正直嫌だ。

少々いただいてくるという事は、他人の魂をつまみ食いするという意味になる。
魂を狩る仕事の死神にとっては、悪魔は邪魔でしかない。
シエルとしては、他人のモノを食べるセバスチャンが許せない訳で…

まあ、どうやって食べるのかまでは分からない為想像の域なのだがそれがどうしても嫌な方向にしか想像が出来ないのだ。



「…明日」


「何でしょう?」


「例の仕事があっただろう」



セバスチャンはその言葉に、ああ…と呟く。
連続殺人の犯人の目星をつけ、明日その犯人に会いに行く予定だった。
まあ…声に出す訳にはいかないが、現行犯扱いとして捕まえる予定だった。
つまり死者が出る…という事になる。



「しかし意味が分かりませんね、明日まで待たなくても今行って来てしまえば早いのですが…」


「…ふん。僕の目の届かない所で好き勝手されるのは好きじゃないからな」


「はあ…分かりました」


明日は無理をして平然を装わなければならないと言う事になってしまった…。

今日は休んでおけと一言言い残すと、シエルは部屋を出て行った。
パタンとドアを閉じ、思わず出そうになった溜息を呑み込む。
あのままの状態でいられるのも困るし、だからといって知らぬ所で魂を食い散らかされても困る。
……どうもアイツが食い散らかすと言うと、卑猥な意味にとってしまう自分が嫌いだ。
なら目の届く範囲ならばと、自分なりに葛藤の末の決断だ。



「…命令は控えてやるか」


そうそうあの状態になられても困るし、アイツの身体に他人のモノが入るという事が許せない。




後日命令ではなく、お願いをされたセバスチャンは笑顔のまま固まってしまったらしい…。




end
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