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□選ぶは―…
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シエルside


相手が悪魔だというのは、痛いほど理解している。
いつかの死神が言ったように、『愛』など存在していないとしても。
心の奥底に根付いてしまったこの感情は、今更取り除くには遅すぎて…


何をするにしても、すぐ目で追ってしまう
紅茶を淹れるときに添えられるその細い指、心地よい声を紡ぐその唇
魅惑的なその赤い瞳に、まるで囚われた愚かな人間のように



言えば何でも従うのは分っている

その事で満足したつもりでいる自分はどうだろうか…






「シエルー!」


「リジー」


エリザベスと呼ぶなと言われ、渋々ではあるが愛称で呼ぶ事となった。
婚約者であるエリザベスとは、将来的には共になるのだろう



「シエル、疲れてるの?顔色が悪いわ」


何気に鋭い彼女は、こうやって自分を気遣ってくる。
そっと触れてくる手は、決して不快なものではなく素直に受け入れられる。
わざと明るく振るまい、元気づけようとしてくれているのも分っている。



「少し寝不足なだけだ、心配はいらない」



「本当?無理はダメだからねっ」


一番いいのは彼女を愛し、普通に共になる事だというのは理解してはいる…

手を引かれ、向かうはどうやら中庭のようだ。
確かにここの所室内に篭りきりで、外の空気を吸っていなかった。
何を言うでもなく、ただエリザベスに手を引かれるまま歩いた。



「セバスチャン、お散歩に行ってくるわ」


「分りました、坊ちゃんも特に予定はありませんからごゆっくり」


「…行ってくる」



夕食まで時間はある、例え返らなくとも時間前にはセバスチャンは迎えに出てくるだろう…。
引かれる手に一瞬視線を向けたが、すぐにいつもの笑みを浮かべる執事
本当に一瞬の事で、よく分らなかったが…

それでもどこか、その瞳に嫉妬の色を浮かべて欲しいと望んでしまう。
見送られ、閉まる扉にらしくもなく胸が痛んだ。




…本当に、独り善がりなのだと思い知らされる。




久しぶりの外は身体にとってはとても心地よいものであったが、心は晴れそうにない。
だがそれをエリザベスに悟られる訳にはいかない…
傷付けないためと言って、自分が苦痛から逃れたいだけ



「シエル、シエル…」


「リジー?」


「あのね、シエル…私はシエルが大好きよ」



そっと近づいてくるエリザベス
穢れを知らない大きな瞳が、とても綺麗だった。
触れた唇はとても柔らかく、けれど突然の事に反応が出来なかった。
ふわりと笑みを浮かべ、ゆっくり離れた。



「リ…「私ね」


言葉を遮られる
ふざけてなどいない、真剣な声色



「シエルが好きなの、だから婚約したときとても嬉しかった」


いつかシエルが私の旦那様になって、幸せな家庭を築けるんだ…って。
明るい声色で語るエリザベスに、ただ何を言えるでもなく聞き手になる。
会話の合間にあく沈黙に、屋敷に目をやれば窓越しにセバスチャンと目が合った。


だがやはり、その瞳からは何も感じられず…
何かが壊れそうな感覚になる。




セバスチャンにとって、自分は所詮魂を代償にした契約者でしかないのだと…





「だから、シエル―…




ザアッと風がふく
真剣な眼差しで射ぬかれ、シエルは息を呑む。
ああ、自分は君をそんなに傷付けてしまっていたなんて…







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