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□選ぶは―…
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シエルとエリザベスの中庭での散歩の間、セバスチャンはただ夕食の準備に勤しんでいた。
とはいえ、殆ど下ごしらえを終えてしまい
間際に仕上げてしまうものばかりで、手があいてしまった。
相変わらずな使用人達をなんとか使い、今日一日平和とは言い難いが過ごす事は出来そうだった。
ふと窓の外を見れば、二人の姿が目に入った。
仲睦まじい…と、本来なら見えるのだろう
けれどシエルに愛を囁かれる身としては、その見た目だけの幸せに失笑を禁じえない。
何故悪魔であるセバスチャンを想い、同じ人間で子孫を残せるエリザベスに同じ想いを向けれないのか…。
二人の重なる陰に、スッと目を細める
我侭な主人であるシエルは、セバスチャンと契約するきっかけともなったあの事件の傷は深い。
闇を抱え、怯えそれでいて気丈に振舞う
その魂に惹かれ引き寄せられた
その闇を癒そうとする光でもあるエリザベスは、正直セバスチャンにとって障害でしかない…
なのに―…
「…いけない、そろそろ準備に取り掛からなければ」
思ったより時間が経っていたようで、懐中時計の針は予定時間を少し過ぎていた。
***
「坊ちゃん、エリザベス様準備が整いました」
「本当?丁度お腹が空いた所だったの!」
シエルの手を引いて、エリザベスは楽しそうに屋敷へと足を向ける。
渋々と…だが今までとは僅かに違うシエルの表情に、セバスチャンは気づく。
優し気で、愛しむような眼差し…
それはかつて自分に向けられたもので…
やっとエリザベスと向き合う事が出来たのだろうと、セバスチャンは理解する。
「何をしているセバスチャン、早くしろ」
「失礼しました」
契約当初と同じ態度に、ただ何も考えず頭を垂れた。
痛むはずがない、決して…
これでいいと、言い聞かせる。
悪魔と、人間
いずれ魂を貰う為だけに、契約をしたに過ぎない
自覚など、当の昔にしていた事
だがそれを認める訳にはいかないと、自ら蓋をしていたに過ぎない…
「―今更、ですね」
そう呟いた声は、誰の耳にも届くことはない。
ただ一人、エリザベスは一瞬だけ暗い色を宿しセバスチャンを見つめたが
すぐに視線を外した
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