MAIN

□選ぶは―…
3ページ/8ページ


シエルとエリザベスの中庭での散歩の間、セバスチャンはただ夕食の準備に勤しんでいた。
とはいえ、殆ど下ごしらえを終えてしまい
間際に仕上げてしまうものばかりで、手があいてしまった。
相変わらずな使用人達をなんとか使い、今日一日平和とは言い難いが過ごす事は出来そうだった。


ふと窓の外を見れば、二人の姿が目に入った。
仲睦まじい…と、本来なら見えるのだろう
けれどシエルに愛を囁かれる身としては、その見た目だけの幸せに失笑を禁じえない。
何故悪魔であるセバスチャンを想い、同じ人間で子孫を残せるエリザベスに同じ想いを向けれないのか…。


二人の重なる陰に、スッと目を細める


我侭な主人であるシエルは、セバスチャンと契約するきっかけともなったあの事件の傷は深い。
闇を抱え、怯えそれでいて気丈に振舞う
その魂に惹かれ引き寄せられた
その闇を癒そうとする光でもあるエリザベスは、正直セバスチャンにとって障害でしかない…

なのに―…






「…いけない、そろそろ準備に取り掛からなければ」



思ったより時間が経っていたようで、懐中時計の針は予定時間を少し過ぎていた。









***



「坊ちゃん、エリザベス様準備が整いました」


「本当?丁度お腹が空いた所だったの!」


シエルの手を引いて、エリザベスは楽しそうに屋敷へと足を向ける。
渋々と…だが今までとは僅かに違うシエルの表情に、セバスチャンは気づく。

優し気で、愛しむような眼差し…
それはかつて自分に向けられたもので…



やっとエリザベスと向き合う事が出来たのだろうと、セバスチャンは理解する。





「何をしているセバスチャン、早くしろ」


「失礼しました」


契約当初と同じ態度に、ただ何も考えず頭を垂れた。


痛むはずがない、決して…
これでいいと、言い聞かせる。

悪魔と、人間

いずれ魂を貰う為だけに、契約をしたに過ぎない

自覚など、当の昔にしていた事
だがそれを認める訳にはいかないと、自ら蓋をしていたに過ぎない…


「―今更、ですね」


そう呟いた声は、誰の耳にも届くことはない。




ただ一人、エリザベスは一瞬だけ暗い色を宿しセバスチャンを見つめたが
すぐに視線を外した






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ