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□理想の奥さん
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別に最初から興味を持った訳ではなかった
仕事で仕方なく、監視も兼ねて見ていただけ
自分が見かけを裏切る大食いだというのは、身近な人間にとっては最早周知の事実だ。
でもだからと言って、何でも食べるという訳ではない。
それなりに味には煩い方だ、美味しいと評判のものでもイマイチだと感じるけれど



仕事は何をしているかって?
女王陛下の秘書武官兼執事だよ、名前の通り大体の事はできるんだよね
二人でこの仕事をしているわけだけど、名前が同じ
当初は別に気にしなかった、そう当初…は







「ああ、ありがとうございますフィップスさん」


「これくらいは当然の事だ」



この前ぶち壊した扉をせっせと直す、チャールズ・フィップス
服装こそいつものままなのに、何故か頭にタオルを巻いて金槌や釘を手にしているのは違和感があり過ぎる。
傍にある椅子に腰掛け、机に頬杖をついて不貞腐れているのはチャールズ・グレイ
苛々しているのが丸分りなのだが、肝心のフィップスが無視をしている事でセバスチャンも対応に困る。




「あ、フィップスさん…ここ解れてますよ」


「え?ああ、俺としたことが何たる失態…」


「良ければ繕いましょうか?ドアを直されている間に終わりますので」


「すまない、では頼むとしよう」


上着をバサリと脱ぎ、そっとセバスチャンに手渡す。
それを見ていたグレイの機嫌が急降下したのだが、何せ理由が分からないのでどうしようもない。



「ねえ、紅茶おかわりくれる?」


「失礼致しました、淹れ直しますね」


「別に解れくらい、裁縫キット持ってるから自分で出来ると思うんだけど」


それもそうだ
かといってグレイがぶっ壊したドアを直しているのはフィップスで、彼自身特に何をしたでもないのだが…
何故こんなにも不機嫌なのか、皆目見当もつかない。



「よし、終わった」


「ありがとうございます、服の方も終わりました」


「ああ…流石、万能執事とまで言われるだけあるな」



見事に縫い目すら見当たらない。
満足そうに上着を受け取り、解れ目のあった箇所をマジマジと見ている。
フィップスが褒めるのだから、本当に相当の腕を持っているのだろう。
グレイはうっかり音をたてて紅茶を啜ってしまった事に、内心舌打ちしつつも平然を装う。



「いい嫁になりそうだな」


「……は?」


「あ、いや今のは「もー苛々するなあ!」」



がたんと音を立て、グレイは立ち上がった。
勢いに負け、椅子がそのまま後ろに倒れるが今はどうでもいい。
一体何が彼をこんなにも苛立たせるのか
セバスチャンとしては、特に問題を起こした覚えはない
ツカツカと近寄ってくると、腕を引かれバランスを崩す。



「おい!」


「あ、あの…グレイさん?」


そのまま机の上に押し倒された
机上の何もないスペースに倒されたのは、せめてもの何とやらかもしれないが…
別に避けてしまう事も出来たのだが、余計に機嫌を損ねそうなのでされるがままになった訳だが

何故かフィップスも焦っている
自分の同僚がというよりは、相手がセバスチャンだからと言うのが正しいのだがセバスチャンが気づくはずもない…



「ボクだって!君が作る料理が今まで食べた中で一番美味しいって思ったんだからねっ」


「…はあ、ありがとうございます」


「最近はボクの好みの味ばかりだし、量だって本来一人で作るのも戸惑うのを平然とやっちゃうからついつい甘えたくなるし」



押さえ付けられた状態で上で必死で何か喋っている…、とりあえず大人しく聞いているが
・・・誉められている?
延々と聞いているが、やはり全て褒められている
ならば何故不機嫌なお且つ、押し倒されなければいけないのか…。



「フィップスなんかより、ボクの奥さんになりなよ!」



「…・・・・・はい?」


何がどうしてそうなった…





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