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□白き薔薇は枯れ果てようと
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どれだけ永い時を生きてきたか
そんな事より、あの人と過ごした少しの時間が何より深く刻まれている。
告げられぬ想いを秘めたまま、何度も生まれ変わるあの人を見守り続けた。

まさか自分が精神的に弱るなど、想像すらしたことがなかった。
それほどこの想いは深く重く苦しく…切なかった。
けれどそれは今の幸せに比べれば、他愛もないこと―・・・





「セバスチャン、明日の予定だった孤児院の訪問を今日の15時にしてくれ」


「かしこまりました」


相変わらず無理難題は当たり前、嫌味も言い合えばくだらない事で喧嘩もする。
それはたとえあの人であったとしても、シエル自身の過ごしてきた時間もあるのだから
全てを思い出したとして、あの人と全く同じという訳ではない。
言うならばあの人の死からシエルとして生まれるまでの記憶と経験が、今ひとつになったという所だろうか。

当初は混乱もあって、記憶があやふやな時期もあり苛立ちを隠せないでいた。
それでも今は彼自身整理も出来たのか、すごく落ち着いている。



「ふう…お前の淹れた紅茶が一番だな」


例え一つの身体に収まったとして、どうやら自分に対する愛情だけは強いらしい。
他の生で愛した別の人間の事は、今は微かに記憶を掠める程度だと言っていた。


「…ありがとう、ございます」


ふわりと微笑まれ、思わず目線を逸らす。
そうあまりシエル自身変わりはしないものの、今まで以上に落ち着き余裕を持ったせいか
逆に自分は面白い程振り回され、余裕をなくす。
生きている年数もずっと長いというのに…だ



「こっちを見ろ」



ただ嫌ではなく、寧ろ喜んでいる自分がいて…



「相変わらず反応だけは初心のままだな、お前は」


椅子から立ち上がったかと思えば、掠めるように唇を奪われた。
フッと笑うと、シエルはそのまま息抜きをしてくると言い部屋を出て行った。
ただ一人部屋に残され、片手で口を押さえる。






「…本当に、敵わないんですが」


少し頬を赤く染め、ポツリと呟く…




















「あれ、ぼっちゃ…じゃなかったシエル様どうしたんですか?」


「揃いも揃ってお前達は私をまだそう呼ぶんだな」


「あーやっぱり癖になっちゃってるんで」


「そうか。少し息抜きに寄ってみただけだ」



昔はフィニより低かった身長は、気づけば超えていて当初は違和感があったが流石に慣れた。
フィニ自身も成長はしたものの、中身は相変わらずお子様なようだ。
前ほど失敗はしなくなったものの、たまにするミスはそれなりの被害を被る。

ちらりと手入れ途中の白薔薇を見れば、ある一箇所が気になる…。



「あ、すみません!これつい昨日まで元気だったんで…」


「……あ、いや…フィニその薔薇はそのままにしておいてくれ」


「え?これをですか…?シエル様がそう言うなら残しときますね」



何故このままに?と疑問に思うが、主人の言葉は絶対なのだからと素直に頷いておく。
フィニと別れ、気まぐれに庭を散策する。

視界に白くはためく布を見つけ、思わず脱力する。
予想通り焦っているような叫び声と共に、メイリンが走ってくる。
大方また一度に運ぼうとしたシーツを風に攫われ、探しに来たといったところか…。

慌てた様子でシーツを拾っているが、手に持っているものまで落ちてさらに悲惨になっている。
あれはもう洗い直ししかないな…。


そろそろ仕事に戻らないと今日中に終わりそうにない
外の空気を吸っただけマシか、と考え屋敷へと戻る。








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