MAIN

□白き薔薇は枯れ果てようと
3ページ/4ページ




「あの、シエル…様?」


無言のまま自室に入るものだから、怒られるのかと思えばぎゅっと抱き締められていた。
予想外の行動に、どうしていいか分らず声を掛ける。
返事は返らず、変わりに抱き締められた腕に力が込められる。


「シエ「私以外に隙を見せるな、触らせるな、私だけを見ていろ」…シエル様?」


らしくない物言いに、目を瞬かせる。
自分が誰を見て、誰のものか一番解かっているだろう人は目の前の主人以外いないというのに…。
何を不安に思う事があるだろうか



「…すまない、少し混乱しているようだな」


苦笑して、少しだけ腕の力を抜き漸く互いの顔が見えた。



「…情けない顔をされていますね」


「うるさい、分かっている…」


「貴方はいつものように自信過剰なくらい自信を持って下さい…我儘かつ傲慢で、冷静沈着な姿を見せていればいいんですよ」


言葉とは裏腹に浮かべられる笑みは優しげだった



「それが一番よく知る貴方です、それに…私は貴方のモノだという事実に変わりはありません」



「……そ、うか。そうだったな」


悩む必要もなかった。
愛してるという想いを抱いているのなら、どのような感情や葛藤を抱えていたとしても
触れられない理由にはならなかった
好きなときに触れて、好きなようにすればいい…




「セバスチャン」


「?」


「なら、今まで我慢していた分も触れていいな」


返答など最初から聞いてないのは分かりきった事で、一瞬今日の業務はどうすればいいか悩む。
そんな事を思っているのは分かっていたのか、シエルはそっと身を離す。



「心配するな、今日の仕事はするさ…孤児院の件は此方の都合に合わせたしな」



不敵に笑みを浮かべるのに、からかわれたと気付く。
ああでも、弱っている貴方も素敵ですがこの方が好きですと言ったらどうなるだろうか




昼食も終え、午後の紅茶を淹れていた。
今朝よりも落ち着いた様子のシエルに、ホッと息を吐く。
思えばそうだ、幾ら大人びたと記憶を一つにしたとしても自分に比べれば赤子同然なのを忘れていた。
あの程度で…といってはなんだが、それを悩んでいてくれたというのはやはり嬉しい。
想いがなければあるはずもない悩み…




「ああ、そうだ」


「え?」


カップを置き突然立ち上がると、そのままセバスチャンの手を握った。
手をひかれ、歩き出すシエルに訳が分らずされるがまま
仕事をしに戻ったであろう自室から出て、歩いて行く。




「シエル様?」


「今朝散歩の時に見つけたのを思い出した」


来たのはフィニが頑張ったであろう薔薇の茂る庭
その薔薇の一つに手を伸ばすシエルに、ただ慌てて止めようとするが手で制される。
棘で手を傷つけるような事にはならず、ホッと息を吐く。



「これは」


「お前なら意味くらい分かるだろう」


「…はい」



受け取ったのは白い枯れた薔薇。
人によってはなんでこんなものを渡すのかと言う者もいるだろう。
意味を知っているからこそ、嬉しさが込み上げてくる。




白い枯れた薔薇

それが持つ意味なんて…





「生涯、なんて言葉では足りないがな」



生涯を誓う
それすら越えて、永遠に共にある事を誓おう








END
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ