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□4月1日が何か?
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「セバスちゃーッゲブォア!!!」


「何しにいらっしゃったのですか?」


窓から飛び込んできた赤いソレを思い切り足で蹴り落とした。
蛙の潰れたような醜い声を発して、ソレは手入れの行き届いた床に落ちた。
立ち上がる前にうつ伏せで倒れているソレの後頭部をグリグリと踏みつける。



「う゛ぐ、セバス、ちゃ…あっ」


「……」


最後の喘ぎに思わず鳥肌が立ち、足を退け後ず去る。
この赤い死神はそっけなく冷たくされるのが好きなドMだったのを忘れていた。
心底不快なものを見たとばかりに、セバスチャンは目を逸らす。



「いだだ…んもうセバスちゃんったら、そんなに溜息ついてたら幸せが逃げちゃうわよ☆」


「今すぐ貴方が目の前から消えてくださるだけで、私は幸せですよ」


窓を開け放ち、さっさと帰れとばかりに窓の外を指す。
よっこらせと何とも爺くさい掛け声と共に起き上がり、赤いコートを手で叩く。



「ねえセバスちゃん…」


瞳を伏せ、力のない声で言葉を紡ぐ…
正直に言っていいだろうか、本当に気持ち悪い。



「実は私、貴方の事嫌いなのよ」


「…そうですか、ありがとうございます。私は貴方が嫌いですよ」


にっこり笑って、胸倉を掴むとポイっと窓の外にゴミを捨てるように投げた。
その瞬間見たグレルの表情は、頬を染め…まるで恋する乙女…。

…気持ち悪い。


「セバスちゃん今日はエイプリルフー…


声が小さくなっていったので、最後の方は聞こえなかった。
言っておきますが、私は嘘をつきません。
よって先程の言葉も、ちゃんと私”は”と言ったのに…
嘘や冗談を言っていいからと、全てをそうだと受け取るのはどうでしょう。
ああ、まあ都合のいい頭だという事ですね

どうでもいいものに時間を割いてしまった事に、少し歩調を速めて厨房へと向かった―…







何事もなく昼食を終え、食器の片付けをしていると腰に軽い衝撃がくる。
振り返れば金色が見え、そもそもこういった行動をするのは限られている。


「フィニ、仕事が出来ませんが」


「セバスチャンさーん、僕嘘つかなかったんでおやつちゃんとくださいよ?」


「はいはい、大人しくしていればちゃんとあげますよ」


両手を挙げて喜ぶ姿に、本当に16歳なのかと疑いたくなる。
人それぞれなのだから別に違いはあるだろうが…



「仕事はちゃんと終えたのですか?」


「はい!今日は失敗もなかったんです。けど」


「けど…?」


失敗をしていない事は褒めれる、その続く言葉は何か



「何か赤い人が落ちてきて、枝が折れちゃったんです」



…あの死神
落とすなどという生ぬるい方法を選んだのが間違いだったか…。
とりあえず気にするなといえば、不思議そうに首を傾げていたが特に気にするでもなく出て行った。

アフタヌーンティーの準備を進めていれば、ひょっこりとアグニが顔を出してきた。
そういえば今日は此方に来るという連絡があったと、今更ながらに思い出す。
大した用がないとはいえ、シエルがソーマに使いを頼んだのだからそれなりの出迎えは必要だったろうに


「いえいえ、セバスチャン殿はお忙しい身ですから!それに私もいますし」


「そうですか?ありがとうございます」


「あ、それで此方をいただいてきたのですが」


差し出されたのは熟れたいちごの入ったバスケット
所用先の老婆に、量が多すぎて食べれないからと貰ったらしい。
これは明日にでも食べなければ、痛めてしまうだろう。
一つ苺を摘み、ペロリと舐め一瞬何かを思案するような表情を作るがすぐにパクっと食べる。
一応毒見はしておくものだと思っての行動だったのだが…

ふと視線が気になり上を見れば、何故か顔を赤くしたアグニが…


「アグニさん?」


「はっ…あ、いえ…何でもありません」


決していやらしいとか何て思ってませんから。
その言葉に眉を下げ、苦笑する。
つい声にしてしまった事にアグニは慌て、あたふたと意味もなく動き回る。


「私は、いやらしいですか?」


「いえ、でうすから、そのっ」


「よく言われるんですが、やっぱりそうなのでしょうか」


毎回会う度にミッドフォード侯爵夫人に…

その言葉にピタリとアグニは動きを止める。
ギギギとまるで油のきれたブリキの玩具のような、音が聞こえるような動きで首だけを動かす。
両手で肩を掴まれ、セバスチャンはただ目を瞬かせ見上げる。



「私はどんなセバスチャン殿でも好きですから!!」


例え誰かにそのいやらしい面を見せたとしても、自分じゃない誰かに見せたとしても…
首を傾げながらも、くすくすと笑う


「ありがとうございます、と言えばいいんでしょうか?」


「あ」


「面白い方ですね、アグニさんは…私は好きですよそういう方」


ここの使用人達と違って仕事が出来る貴方、とても好意を持てる。
いい意味での言葉を言ったのだが、何故か目の前のアグニは落ち込んでいた。
まるで深海を漂っているのではないかというくらい、暗い…



「アグニさん…?」


「せ、セバスチャン殿…その許可も得ずに触れてしまって、そうですね嫌われてとうぜ…「アグニさん」


どうやらこの相手も例のイベント状態らしい。


「アグニさん…私は嘘はつきませんし、そもそもエイプリルフールは正午までですよ」


「ええ!!そうなのですか!?、あ…だとしたらす、すすす好きは本当で」


「ええ、友人として大切ですから」


微笑めば、何故かちょっと寂しそうに笑うアグニ。
あまり理解出来ないなと思っていると、走って向かってくる足音が一つ。
バンッと乱暴に開け放たれ、中に入ってきたのはソーマ。



「アグニ!聞いてくれ、シエルが鬱陶しいからさっさと何処かへ行けとか言ってくれたんだ!」



端から聞いていれば、どんな変態だと思われる台詞だ。
アグニも言い辛そうにおろおろしている。
きっとソーマもアグニ同様、エイプリルフールだから逆の意味としてとったのだろう。

こればかりは黙っていた方が幸せなのでは…とアグニを見れば、力なく頷いた。
主人に対し嘘を吐くのは心苦しいといった所だろうが…



「では私は坊ちゃんに紅茶をお持ちしますので失礼しますね」


「あ、はい引き止めてしまいすみません」


ソーマは余程嬉しかったのか、セバスチャンの姿が目に入ってなかったようだ。
ドアを壊す勢いで入って来た事を思い出し、怒られると思ったのだろう
アグニの背中に震えて隠れていた…。






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