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□この気持ちをお返しに
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無駄に時間の掛かるものばかり押し付けられ、帰宅したのは夕方。
屋敷が原型を留めていた事に、ただホッと息を吐いた。
玄関を潜れば出迎えたのはフィニアンとバルド…
差し出されたお世辞にも綺麗とは言えないラッピングに包まれた何か



「バレンタインデーのお返しです!」



そう言われて、ああと納得した。
バレンタインデーで作った際余ったチョコレートで作った物をあげたのを思い出す。
どうせつまみ食いしてなくなるよりは、ちゃんと調理したものをあげる方がいいと思っての事だったが
まさかそのお返しがあるとは思っていなかった為、これには驚く。

中身がどんなものかは想像したくはないが、笑顔で受け取っておく。



話しを聞けばなんと主人までも一緒に作っていたらしいではないか
散々だったであろうが、わざわざ一緒に作ったのは全て一人では出来ないと判断してだろう。

それよりそうなるとこの包みはもう一つ増えるのだろう…
バレンタインデーを思い出すと、お返しが一体何なのかはっきりいって欲しくないものだろうと想像していたのだが

なんとも可愛らしいお返しだろうか。
あの貧弱な体ではきっと明日は筋肉痛で辛くなるだろうに










「ただいま戻りました」


「思ったよりは早かったな…セバスチャン」



手招きされ側に寄れば、包みを差し出される。
分っていた事とはいえやはり貰う相手が相手なだけに、嬉しそうに受け取る。
そんな自分を見てシエルは凝視していたが、ふいっと視線を外す。



「味の保障はしない」


「坊ちゃんからいただけただけでも嬉しいですよ?」


「…そうか」



顔まで逸らすが、僅かに頬が赤い気がした。
普段のあの図々しいまでの態度はどこにいったんだと言えるほど、可愛らしい反応に思わず笑みが零れる。

それに気付き不機嫌そうに見上げてくる主人に、肩を竦める。
さてどうご機嫌をとるか考えようとしたが



「許して欲しかったら此処で食べろ」


悪意も全く見えない真っ直ぐな瞳で、じっと見つめそう言った。
その瞳に気を取られ、発言まで意識をまわさなかった
それを後々後悔するなんて、まだ知るよしもない。



「此処で、ですか?」


「ああ、僕が作ったものを食べる所が見たい」



そもそも食べるという行為すらしないのだから、珍しいのもあるだろう。
方結びされたリボンを苦もなく解き、包みを開く。
多少焦げた匂いもするが、ちゃんとクッキーの香りがする。
見た目は…石ですか?と問いかけたくなるが、そんな事を聞けばどうなるか分かりきっている
そんな事よりシエルが作ってくれたという事実が本当に嬉しいと感じていた。



「一応、一番マシなのを集めて入れた」


クッキーを口に運ぶのをじっと見つめてくる。
正直ずっと見られているのはなんとも言えない気分なのだが、それはあえて口にしない。
味の保障はしないと言っていたが、普通に美味しいと言える味だと思う。
バルドは腐っても一応シェフだったと、今更ながら思い出した。

人間の食べ物を美味しいとは思えないが、たまにこうやって食べさせられるものは美味しいと感じる。
勿論好意を持って食べさせられたものに限るが…




「美味しいです」


「…そうか、なら…良かった」


あまりにも嬉しそうに笑うものだから、目を軽く見開く。
何故だか急に気恥ずかしくなり、視線を逸らす。



「セバスチャン、此処にこい」


此処とは、腰掛けているベッドの隣
隣に座れと言う事だろうが、何故…とは思いつつ素直に従う。

包みから一つクッキーを手に取ると、シエルはセバスチャンの口元に持ってくる



「座りでもしないと僕の首が痛いからな」


「…それは」


「謝る必要はない、いいから食べろ」



食べさせたいから座らせたんだと言われ、頬が赤く染まる。
端から見れば子供相手に何頬染めているんだと言われるだろうか…



とても甘い一時で

その時間が終わらないでほしいと願う

まるで人間のようだと苦笑すれば

そんな所を含め全てが愛しいと言われる




嗚呼、だから貴方には叶わない






END
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