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□この気持ちをお返しに
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「…何を、しているんだ?」



覗き込んだ厨房は、見るも無残な状態だった。


この日はセバスチャンには用事を頼み、夜までは帰ってこないようにした。
普通のものではすぐ終わらせてしまう為、今日という日の為に色々と予定を組んだのだ。

前々から考えていた事を実行しようと厨房にきて…冒頭に至る。





「あ、坊ちゃん!」


「坊ちゃん?此処も結構危な…っておいフィニ!混ぜすぎだ!」


フィニアンの持っていたボウルは空、どうやら勢いよく混ぜすぎだ様だ。
まさかこの二人が一緒に厨房にいるとは思わず、どうするかと考え込む。
自分の事はよく分かっているから、一人でというのはまず無理だろう。
だがフィニアンまで一緒となると、無事で作業をする事が出来るかどうか…



「あ、えっとですねーバレンタインにセバスチャンさんにチョコを貰ったんですよ」


「それでまあ…お返しくれぇしようかと思いまして」


「それでこの現状なのか」


どうやらセバスチャンは余ったチョコを二人に渡していたようだ。
調理台の上は調理器具が散乱しているが、何個か折れ曲がったりしているのは勿論フィニアンが原因だろう。
そもそもシェフであるバルドが、失敗を繰り返している時点でこの作業の終わりが見えそうにない。




「ところで坊ちゃんはどうして此処に来たんですか?」


「ん?ああ…僕もアイツに貰ったからな」


「そうなんですかー、あ!じゃあ一緒に作りましょう!」



どうやら作っているのは無難にクッキーにしたようだ。
クッキーも悪くはない、別に作るものは何だって構わないのだし重要なのは調味料だ。
ポケットに仕舞ってあった小瓶を取り出し、準備に取り掛かった。






















「…なんだコレは、岩か?」


「いや、一応クッキー…の筈」


「セバスチャンさんが作ったのと同じにならないですね…」



出来上がったクッキーはまるで岩の様だった。
何度か挑戦してみたのだが、何度やってもこうなってしまう。
これはもうある意味天才だろう…。
普段使わない体なだけに、腕が悲鳴を上げている。
材料をある程度混ぜる所と、オーブンはシエルがした。
オーブンなんてバルドに任せればどうなるかなんて、普段見慣れているだけに分かりきっている。



「坊ちゃーん、これは焦げちゃいましたし、これは生なんですけど…」


「…まあ、あれだ…要は気持ちの問題だと思うぞ」


これ以上はどうしようもない。
思ってもいない事を言えば、落ち込んでいたフィニアンは元気になった。
なんて単純な奴、羨ましい限りだ…。



「とりあえずラッピングでもしておくか」


「そうですね!それにしても味見したかったなー」


「まあそう言うなって、味見ばっかしてたら渡すのもなくなっちまうだろ?」



当初の材料から作れた僅かなクッキーなのだから…
さっさとラッピングを済ますと、後は頼むと言い残し自室へと戻る。
当初より更に悪化した状態の厨房に残された二人は、思わず溜息をこぼした。

流石にこれは当主であるシエルにさせる訳にはいかない、勿論手伝うと言われても…だ。







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