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□籠の鳥なんて興味はない
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さっさと品を見せてもらったら言い包めてしまおうと思っていたのに、これは一体どういう状況か…
視界いっぱいに広がる金色に眩暈がしそうだ。

つまり、ベッドに押し倒された状態だった。



「あ、の…」


「ああ、その美しい薔薇のような紅い瞳に吸い込まれそうだ」



…思わず殴り飛ばそうとするのを抑えた自分を誉めたくなった。
いきなり押し倒され、その気持ち悪い言葉を囁かれ頬を染める趣味はない。
延々と何か語っているが右から左だ
こういった男が趣味だという女性の気持ちは、全く持って理解しがたい。

さてどうするか…




バーンと勢いよくドアが開かれ、子爵もセバスチャンも唖然とドアを見る。
なんかもう温和とか何それ食べ物?みたいな感じになっているアグニが、両手でドアを開けた状態でかたまっていた。
真っ赤になったと思ったら蒼くなったり、顔色を変化させている…肌が黒いから分りにくいけど



「その手を離せ!ええとなんだったか…そうだ変態!」


その横からひょっこり出てきたのは、固まったままのアグニの主人であるソーマ
何故此処に来ているのか、それだけがセバスチャンの頭にはあった。
それはつまり今シエルは一人でいるという事で、家名もあるのだから危険がある。

自分の代わりにと思っていたのに…
何をしているんですか、アグニさん…




「だ、誰だ!」


「ハッ!そ、そのように出会ってすぐ押し倒すような節操のない方に名乗る名前はありません!」



名乗らなかった事だけは褒めておきます。
しかし公にしたくはないし、今回子爵は何かしたわけもない。
どう収集つけるべきか、それを考えると頭痛がしてくる。




「そこのお前が押し倒している奴は、もう相手がちゃんといる…つまりお前は嫌がる相手を襲うただの変態だ」


「嫌がる?そんな訳…」



なるほど、中々いい案ですね
いつも馬鹿だ馬鹿だ阿保だと思っていましたが、そこまで馬鹿ではなかったですね
見直しました、ソーマ様。



「「あ」」


「…っ」


ハラハラと涙を溢し、目をぎゅっと瞑ると顔を背ける。
いかにも嫌です…とばかりに。
その様子に子爵だけでなく、アグニとソーマまで固まった。
ベッドに押し倒されてドレスは乱れ、その拍子で捲くれた裾から白い足が晒され
それだけでもアレだというのに、涙まで流し黙って耐えたような様子…



「・・・・いやです」


そう一言呟いて、子爵を見上げれば
傷付いたように自分を見つめていた…

自分が誘ったのに嫌がられてショックなのだろうか?
とりあえず自分から逃げようとするのは、この状況ではあまり良くないが…

入り口で固まっている二人は何をして―…



「何をしている、さっさと助け出せ」


「あ、はい!」


ふと聞こえた声に、アグニはセバスチャンを子爵から引き離すと抱え上げた。
子爵もそれには抵抗せず、自ら身体を離した…
その様子にアグニは困惑するが、今は話している暇はない。

一言だけ失礼しますと言って、部屋から出ていく。



「…アレは僕のものだからな、勝手に手を出されては困る」


「…君が彼女の。大切ならばちゃんと閉じ込めておかないとダメじゃないかい?」



あんなに美しいのだから、籠から出したらもう戻ってこないのかもしれないよ?
それにはシエルは鼻で笑う



「アレは必ず僕の元に戻ってくる、籠など必要ない。それに…自慢もしたくなるというものだろう?」


「…フッ、分らないでもない」


「まあ、アレの魅力にあてられたという事で今回は見逃してやる」


そういい残し、足音は遠ざかる。
姿は見えなかったが、変声期前の子供の声…。
そんな子供に自分は負けたのかと思うと、滑稽でしかない。
何より惨めなのは、この自分が本気になったという事実だ…



「まだまだ魅力が足りないって事かな」


いつもの自分らしさと取り戻し、苦笑する。
ああでも、もう一度会ってみたいかな…



























とりあえず煩い二人を上手く言い包めると、部屋の外に追い出した。



「お疲れのようだなセバスチャン」


「…そうですね。ですがやるべき事はしていますのでご安心を」


ニッコリ笑って、シエルに差し出したのは
子爵の自室にあったアンティークに隠されていた、例の粉だった。
あのアンティークの元の持ち主は、犯人と特定した人物であったし
色々と裏づけも取れている、これで追い詰める材料はそろったという所だ。




「ところで」


「はい?」


「何簡単に押し倒されているんだお前は」



そんな事言われましても…
身の危険を感じれば対処はしますが、敵意もなく予想外の行動に動けなかった…というところなのだが。



「僕の許可なく他の奴に触らせるな」


「それは、初耳なんですが…」


「なら覚えておけ」


全くただでさえ人目を引いているのに、女装させたのは失敗だったか…。
余計な邪魔者も増えてしまったようだ

…だが奪われる気は更々ない。
面倒だとは思うが、ゲームだと思えば苦はない。




「坊ちゃん?」


「…罰として今日はずっとその格好でいろ」


「え!」


「僕が寝るまでだ」


モテすぎる恋人を持つと苦労すると聞くが、そこまでではないな。
籠の鳥なんてものは興味はない、空を自由に飛んでいる鳥を捕まえるのは好きだがな











「…私を抱き締めたまま眠られては、朝まで…って事でしょう」


ドレスが脱げません…
抱きついたまま寝息を立てるシエルに、苦笑する。

女装はもうしたくはないが、着て見せた最初に呟やかれた言葉
それのお陰でトラウマにはなりそうにない…

『可愛いじゃないか』

蒼はご自分をイメージしている所がある。
その色をセバスチャンに着せるという所は、つまりはそういう事だろう。
自分のものだと言ってもらえているのだと思うと、言葉にはしないが嬉しいと思う。







「…寝ていらっしゃるんですよね?偶然です、よね?」


ベッドに横になった時から、裾はずるずると上がってしまい太腿まで見えている状態だったのだが…
寝ているシエルは擦り寄ってきたと思うと、太腿を撫でるような手つきだ触れ
そのまま外れない

困惑しながらも、動けない身ではどうしようもなく。

考え込んでつい寝てしまったセバスチャンを、朝起きたシエルが襲う前日の夜の出来事








END
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