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□籠の鳥なんて興味はない
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「楽しんでいただけてるかな?」


ふと背後に掛かる声に、やっと来たかと内心ホッとする。
さっさと終わらせてしまおうと思ったのだが、この格好のせいか会話が上手くいかない
何故か必死に会話を続けようとする相手に、印象を悪くするのも分が悪い為笑顔で接していた。
そんな調子で何人もの相手との会話で、疲れが精神的に溜まってきた。

そんな状態でのターゲット自らのお出ましは願ってもない。
子爵の気に入りそうな言葉を選び、笑顔で話せば予想通りの反応が返ってくる。
腰をさり気なく抱かれた時は、思わず鳥肌がたったが…

チラリと先程までシエルがいた場所を見れば、姿はなかった事にホッとする。
これ以上無様な姿は見られていて気分がいいものではない、逆の立場なら歓迎ではある



周りの男性陣は美女…セバスチャンをとられてしまい、手持ち無沙汰だった。
主催者相手にはどうにもできない、ならば帰り際にお近づきになっておこうと決意しているなどセバスチャン本人知るよしもない。




「飾らせてあるアンティークも中々のものだろう?」


腰を抱かれたまま飾られた品々を説明され、それに対し受け答えする博識さにドルイット子爵は惚れ惚れしていた。
美しいものは今まで色々見てきたが、美しさだけでなく知識も豊富…そして何より
自分に返される言葉一つ一つが望むものばかり

今まではただ美しいだけだったりと、結局の所闇オークションの商品としてしまっていたが…。



「…ほしいな」


「いかがなさいました?」


「いや、何でもないよ」



これは…本気になってしまうかもしれない
いや、ここで手放すと後悔するだろう。



「君にだけ、特別なものを見せよう」


手を優しく引かれ、奥へと歩き出す。
背を向けた子爵にセバスチャンはスッと目を細める。


やっと…ですか


これでやっとドレスが脱げ…違いますね、例の品の所に行けますね。
人間らしくしていろという命令さえなければ、こんな手間の掛かる事をしなくて済むというのに…。














「あっセバスチャン殿が」


「どうかしたのか?アグニ」


窓に張り付いていたアグニが声を上げる
勿論近くにいたソーマとシエルくらいしか拾わない程度の声量だが…
セバスチャンという単語に、シエルとソーマも窓の外を見る。
丁度子爵に手を引かれ、連れて行かれるところだった。

どうやら上手くいっているようだ…。
フッと笑いその成り行きを見ていると



「おい、シエルの執事は嫌がってるぞ、助けないのか?」


「そ、そうですよシエル様!」



…人選を誤ったか?
そもそもこの距離で何故表情まで分るんだ!

そしてどうしてそこまで気に掛ける…ああ、何か苛々してきた。
きっと思うように物事が進まないからだろう、きっとそうだ。



「シエルが行かないなら俺が行ってやるぞ!」


「ソーマ様!お待ち下さい、私が先に行き道を開きますから!」



そうだ、アグニとソーマがアイツを必要以上に心配しているのは想っていると思ってもいいだろう
それに対し嫉妬とやらを焼いていた訳じゃない、そうだ…うん。

ハッとして周りを見れば、ホールの出口付近に二人の背中が見えた。



「あのばっ…!」


馬鹿共がと言いかけ、慌てて口を塞ぐ。
走って出て行った二人に周囲の意識は向いており、此方を見ていなかったのは幸いだった。
それより…あの二人が行ったら全てが台無しになるではないか




「…あの二人相手はどうも調子が狂う」


認めたくはないが、一人では危機を脱するには力量不足。
主催者に断りを入れ、帰ると言って後を追うか。
それまで向こうがどうなるか…考えたくもないが、出来ればこの予想は外れて欲しい。














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