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□籠の鳥なんて興味はない
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特別に招待された客しか入れないパーティー会場を前に、気づかれぬ程度に溜息を吐いた。
やるからには完璧にやってみせるが…
着いてきたシエルはといえば、隣の建物から見物しているらしい。
勿論一人でいる訳ではない
隣の建物でもシエル宛ての招待状があったのだから、このついでに行ったのだろう。
勿論招待された連れとして、今回はソーマを一緒に連れて行った。
そうなれば必然的にアグニが傍にいる事になるから、危険等そういったものからは安心できる。
「何かあれば私も行きますしね…」
それより、アグニとソーマにはこの格好を見られなくて良かったと思う。
流石にそれは嫌だ
それよりさっさと終わらせてしまおうと、手に持った招待状を入口の者にそっと渡す。
最初は招待状に視線を落としていた受付の男は、顔を上げたと思ったら固まった。
…一応これでも完璧に女装した筈だが、どこかおかしかったのだろうか
「あの、何か?」
「あっいいいい、いえ!失礼致しました。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
顔を真っ赤にし、どもりながらも中へと案内される。
どうやら別におかしくはないようで、気にするだけ無駄といった所だろうか。
ざわめいていた会場に一歩足を踏み入れれば、入口付近から徐々に静かになっていく。
サラリを揺れる漆黒の髪、透き通るような白い肌
落ち着いた蒼いドレスを身にまとうまさに絶世の美女
初めての場所に落ち着かないのか、ルビーのような紅い瞳は頼りなさ気にキョロキョロと辺りを見回している(勿論これは演技だ)
連れと来ていない者達は我先にと、一人でいるセバスチャンに声を掛けようと足を踏み出す。
だが一番近くにいた男が声を掛け、話を始めてしまった為にそれはできなかった。
さっさとフられてしまえ!
それがこの会場にいる男の心の声だった。
「まあ、流石といえるな」
「何か言ったか?シエル」
「いや、何でもない」
二階での会場だから、隣の建物の窓から丁度いい具合にパーティーホールが見える。
わざとこういった造りの建物を選んだのだろうが…
こう外から見えやすいことで、何も怪しくもないと遠まわしに言っている、といったところか。
パーティーは好きではないが、今回別行動をするには仕方ない。
いい見物があるし、気分は悪くはない。
自分が見立てただけはあるな、あのドレス
「ソーマ様、シエル様お飲み物をいただいてきました」
軽く礼を言って受け取ると、再び視線を元に戻す。
ふとセバスチャンと視線が絡み、思わず息を呑む。
すぐに外されたものの、まだ見られているような感覚に舌打ちする。
どんなに着飾って女の格好をしようとも、あの悪魔には変わりはないのだった。
そんな当たり前の事をつい忘れそうになる
「やっと動き出したか」
出来れば二度と視界にすら入れたくなかったが、仕事なのだから仕方ない。
どうやら子爵もセバスチャンに気付いたようだ、接触は必ずするだろう。
あの会場でアイツ以上の美人な奴はいないのだから…
一瞬嫌そうに顔を歪めているセバスチャンに、イラついていた気分が大分よくなった。
やはりアイツの嫌がっている事をしている時は気分がいい。
「何を見てるんだシエル」
ふと隣に陰が出来たと思えば、ソーマが自分と同じ方を見ている。
「ん?おい、あれはお前の執事じゃないのか?」
何故気付く!
それなりの距離もあるのだから、背格好を知っていなければ自分だってあの人ゴミから見つけるのは容易ではないというのに…
女装については何も言わない所は、敢えてツっこまない。
だがソーマの言葉にアグニまでもが視線の先を見つめている。
「せ、セバスチャン殿!?なななっ何故あのような格好をしているんですか!?」
バッと窓から身を離すと、真っ赤な顔のままシエルを見つめる。
だから何故分るんだ…。
「僕が頼んだ仕事だ」
「し、仕事でしたか…そうですか、仕事…」
ブツブツと何かを呟きながら、納得したのかそうではないのか…
とりあえずこれで邪魔はしないだろう
しかしそろそろ窓の側に突っ立っている訳にもいかない。
面倒ではあるが多少なりとも交流とやらをするべきだろう
一瞬だけセバスチャンを見遣り、中央の方へと歩き出す。
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