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□無題
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サクサクサク…
不慣れな雪の上を滑らないようにとゆっくり歩く
主人に頼まれた使いの為ならば、例え滑って恥を晒しても構わない…くらい大げさには思っている。

街の外れにある店に着いたものの、どうやらまだ準備中らしい。
思わず溜息を吐けば、白く風にながれた



「…」


歩いてきた道を見れば、そこには一人分の足跡が残っていた
それが何故だか切なく感じ、苦笑する。



「アグニさん?」


「え」


ふと声を掛けられ、振り向けば其処には世話になっている屋敷の執事…セバスチャンがいた。
両手一杯の荷物を持つ所から、彼も主人の使いだろうと判断する。



「手伝いましょうか?」


「いえ、大丈夫です。アグニさんもソーマ様の使いの途中ではありませんか?」


思わず手伝おうかという言葉が出るが、言われたとおり今は使いの途中だ…。
決して忘れていた訳ではなく、単に彼の手伝いがしたいと思っていたからで…
そもそも今手伝うという事は、使いを忘れたと取られてもおかしくはないだろう。



「ソーマ様も今日中と言われましたので、店も開いてませんし…よければ、と思いまして」


「ああ、そうですか」


ご好意ありがとうございます。
ニッコリと笑って返され、顔が熱くなる。
何を隠そう自分は同じ執事である彼に好意を抱いている、勿論恋愛的な意味で

よく気が利くと言われるが、それはつい目で追ってしまっているからすぐ気付くだけの事
この想いは打ち明けられない
きっと同性の自分では迷惑でしかないし、いつか必ず母国へと戻り離れてしまう
考え込んでいるとふとすぐ傍に気配を感じ顔を上げる


「っ…セバスチャン殿?」


すぐ自分の横に立っていたのに驚き、思わず軽く身を引いてしまった。
それを気にした様子もなく、器用に荷物を片手で抱えていた。
ふらふらと危なっかしく揺れる荷物を、つい手に取れば彼は笑って礼を述べた。


「まだ開いてないようですが…」


自分の用事のある店のドアに手を掛けた所で声を掛けるが、そのままドアを押せば鍵は掛かっておらず簡単に開いた。



「此処の主人は札を返すのをいつも忘れているんですよ」


「…そうなのですか?」


「ええ、ですから初めての方だと開いてないと勘違いされても仕方のない事だと思います」



そう言って入る時に、ドアに掛けられた札をopenに変えた。
いいのかと思ったが、自分よりは詳しいのだし気にする事はないかと思い直す。











「結局手伝ってもらってしまいましたね」


「お世話になっていますし、これくら当然ですよ」


何より自分が手伝いたい。
並んで歩いていると手が繋ぎたい等と欲求が出てくるが、両手の塞がっている状態でよかったと思った。
荷物を理由に自分を納得させる



「は、くしゅっ!」


「…大丈夫ですか?」


「あ、はい…」


足を止め、心配そうに見上げてくる。
くしゃみをしたのは恥ずかしいと思うが、こうやって隣を歩いているのに視線が合ったのは嬉しい。
自分が彼より身長が高くてよかったと常々思う
だって上目遣いで…



「アグニさん?」


「はっ…な、何でもありません」


「そうですか?英国の気候は不慣れかもしれませんし…早く帰りましょうか」



もし風邪をひいたら看病してもらえるだろうか…
そこまで考え頭を振る。
先程からこんな考えばかり浮かんできて、どうもいけない。
ふと誤魔化すように足元に視線を落とし、気付く



「あ」


「どうかしましたか?」


歩き出す様子のないアグニに、やはり調子が良くないのかと思い声を掛ける。


「いえ、二つあると思ったら何か嬉しくなりました」


「…足跡が、ですか?」


何の事かと視線を辿れば自分達の足跡
確かにインドでは雪は降らないと聞くが、だからといってそこまで珍しいとも思えない。
そこに何故喜びを感じられるのかが理解出来ない。
首を傾げているセバスチャンに、説明不足だったと慌てる。



「あっその…やはり一人より二人の方が嬉しいんです、何より他でもないセバスチャン殿が隣にいるだけで幸せ…に」


「?」


話すにつれ不必要な言葉まで出てしまう
幸いセバスチャンは意味を掴み損ねているのか、相変わらず不思議そうに見上げてくる。

…つ、告げてしまいたいっ



「アグニさん、風邪をひかれてもいけませんし…行きませんか?」


「あ、す…すみません」


何をやっているのだろうか…。
自分と違い彼は仕事がまだ残っているではないか…。
多少ペースの落ちた歩みに、セバスチャンは特に何も言わなかった。



「アグニさん」


「はい」


「つまり先程の言葉は私と二人だから嬉しいという事ですか」









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