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□Once Again
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握り締めた拳は、爪が皮膚に食い込み血を流していた
その傷に痛みなど感じる事もなく、ただ静かに怒りに震えていた。


「ジェフ…」


いつもとはうって代わった弱々しい声に、ジェフは無意識に拳に力が入る。
応急処置にしかならない巻き付けただけの布切れは、真っ赤に染まるだけ
滴る赤い血が、もうその布が止血の意味をもたないのを示していた。
治療した所できっとロイスの右目は治りはしないだろう



「俺、守るって言ったんだ…」


なのにこの様だ…
悔しさか怒りか、肩を震わせ俯く。


ロイスはクロを誰よりも気に掛けていて、誰よりも面倒を見ていた。
確かに彼は一人で何かする事もなかったし、無理矢理食べさせなければ食事すら
しなかった。
拾ったあの時までどう生きていたか不思議でならない
ただロイス相手にだけは僅かに反応を示した事が、ロイス自身に何を思わせたかは知らない
年齢の割りに小さな身体で、必死に世話を焼きながら守る姿はジェフにとって嬉しかった。
此処に拾われてきた子にさえ、あまり心を開かなかったロイスだったからその変化は嬉しいものだった。


そんなロイスを含め全員を守る役目の自分が、こんな情けない無力だった事が許せない。


どうやら奴等の狙いはクロだったようで、ロイスを殺す事もなくクロだけ連れて
行ったらしい。


「…お前なりにやったんじゃないのか?」


「クロが此処にいない、それが結果なら俺は納得できない!」


ダンッと壁を叩き、睨むように見上げてきた。



「クロは俺が側にいなきゃ何も出来ねーから、何が何でも守るって決めたんだ…



なのにその自分が足手まといになり、人質同然の扱いをされた
銃を突き付けられ、押さえつけられて抵抗もろくに出来なかった。


『このガキ殺されたくなきゃ大人しくしてろよ?』


銃を突き付けている奴を残し、抵抗しないクロを抱え去って行く…
一瞬だけ目が合い息を呑む

どこか悲しそうに、それでいて安堵したような色が見えた。
まるで守られたのは自分のようで、ただ唇を噛み締めるしか出来なかった。

姿が見えなくなると銃を突き付けていた男も立ち上がり、動けないでいる自分に
嘲笑を向け去った。




「…」


「なぁジェフ、あんたの事だから分かってるんだろ?」



何処に行けばいい――…?




















カツンと靴音を響かせ、馬車から優雅に降り立つ。
会場へ足を運ぶ人並みに笑みを浮かべ、青年…ヴィンセントは御者を振り返る。




「じゃあタナカ、行って来るよ」



「いってらっしゃいませ」


時間通りにお迎えに来るという言葉を背に、ヒラヒラと手を振って人の波にのる
ざわめく人ゴミは好きではないが、こればかりは仕方のない事だ。



「さて、と…彼はどこかな?」









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