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□Once Again
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毎日が忙しそうな人の動きに、セバスチャンは暇を持て余していた。
ここ最近はずっと【猫】のままの彼にとって、構ってくれる人がいないのはとてもつまらないものだった。
幸いお腹も空く事はなく、ダラダラと怠惰な時を過ごしている。
ディーデリヒは先日葬儀屋とヴィンセントと話をした後、何故か婚約パーティー当日まで此処には来ないと断言し屋敷を後にした。


セバスチャンとしては、折角構ってくれそうな相手だったと言うのに…という心境だろう。



「やあ、昨日振りだね〜セバスチャン」


「…」



庭の柔らかい緑の絨毯、芝の上で寝転がっていると太陽を影が遮る。
次いで聞こえた声に、閉じていた目を開く。
視界に広がったのは黒と銀、よく知っている相手にセバスチャンは右手を伸ばす。
差し出した手を葬儀屋は、姫の手を取る騎士の優雅さでとった。

遊んで、構って。
そんな声が聞こえそうなくらいにじゃれ付いて、甘えてくる。
違う意味で遊んであげたくなるのだが、そんな事をしている暇はない。



「ん〜すこぉし、分けてあげようかセバスチャン。忙しくて構って貰えてない見たいだからね〜」


「んー」


ヴィンセントとは最近寝れていない、つまりは空腹に近いという事で…
人間には出来ない芸当だが、葬儀屋は違う。
唇を重ね、舌をねじ込み流し込む。
心地よさに目を細め、もっと欲しいと舌を絡めてくるセバスチャンに喉の奥で笑う。

本当欲には忠実だ


「んー」


「もう駄目だよ、これ以上は伯爵が許してくれそうにないんだ〜」


離れてしまった唇を追うように、セバスチャンが舌を伸ばすも頭を撫でて諦めさせる。
奪う事も手に入れる事も容易いとは思うが、それでは面白くない。
…そもそもがだ、主人格というのも少し違うが彼はそう簡単にはいきそうにない。
ファントムハイヴに執着する悪魔、だから余計に面白い。
手に入れてしまったら、この胸の内も消えてしまうかもしれない。
そう思うと実際に行動しないのかもしれない。


「さあ…これからどうなっていくんだろうね〜」


ファントムハイブという名の家である以上、様々な運命が待っているだろう。
その未来をどう進むのか、見せて貰おうではないか。

セバスチャンの絹のような黒髪に手を滑らせ、指でそっと掬う。
服で見えない自分の腰に下がる、モノにそっとセバスチャンに触れていない手を宛てる。


「…君の髪はとても綺麗なものだね、とても害獣とは思えない」


ふとそこでセバスチャンの目を見れば、そこに宿るのは確かな意志。



「おや〜?いつの間に変わったんだい?」


「さあ何時でしょう、それより害獣呼ばわりですか…不快ですが、私も貴方方とは相容れないと思っておりますので」


さっさと手を離してもらえませんか?
冷たい眼差しに、肩を竦め葬儀屋はセバスチャンから離れる。
そこで自分の姿を確認し、セバスチャンは溜息を吐く。
またシャツに一枚…話に聞くに【猫】の自分は、本当に衣類を好まないらしい。
まだ【子供】であれば、服くらいは着ていると言うのに…。


「…勘違いしないでおくれよ?小生は害獣=君とはあまり考えていないからね」


「…それはどうでしょうね」


「嫌われてしまったかい?気付いているんだろう、小生が死神だと」


ええ勿論、嫌と言う程に。
その言葉を呑み込み、軽く頷くだけに留める。
動く気配にハッとなるも遅く、身体は葬儀屋に抱き込まれ
上から除き込まれるよな形になる。
眉間に皺を寄せ、不快を表すも葬儀屋は死神としてではなく
葬儀屋としての飄々とした雰囲気と、笑顔に戻っていた。



「まあまあ〜折角の美人が台無しだよセバスチャン、それに小生は好きでもない悪魔を抱く程酔狂ではないさ」


「…解りましたから、触らないでもらえませんか」


ここぞとばかりに、シャツの隙間から胸やむき出しの太腿の際どいところを触ってくる。
動く右手でペシリと叩けば、あっさり離れていく。
さっさと離れ身を起すと、セバスチャンは歩き出す。


「おや、こんな所に君の服が〜」


「…持っているならさっさと寄こして下さい!」


「着替えさせてあげようか〜?」


「結構です!」


はあ…
思わず溜息を吐く、ペースを乱される。
所々に浮かぶ記憶に、屋敷を見上げて目を細める。
ヴィンセントとレイチェルとの婚約、それはすなわち…いつかは生まれ来る子供がいると言う事。
ふるりと身を震わせたのは、歓喜か不安か。
不安定な心に不愉快そうに顔を歪めるが、葬儀屋が見つめて来る為サッと元の表情に戻す。


ヴィンセントが愛しい。

シエルも愛している。

そして、レイチェルも必要不可欠な人間。

悪魔である自分が、ここまで翻弄される様は実に滑稽だろう。


「セバスチャン、小生の隣はいつでも空いているからね」


「…」


いつもの不気味な笑い声を漏らし、葬儀屋はそう告げると背を向け去っていく。
知っている未来と違うものが訪れる事は、よく理解している。
自分が今存在してる事事態が、そもそも違ってきているのだから。



「婚約パーティーですか、何事もなければいいのですが」


ポツリと呟き、3日後に控えたパーティーを案じる。
自分が守れば何も問題はないのだろうが、何せ意識がいつ替わるのか分からないのだから仕方がない。
とりあえず、今出来る事をするべきだろうと小さくため息を吐いた。






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