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□Once Again
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セバスチャンは一人、茂みに隠れていた。
動きづらいからか、またシャツ一枚になり髪には草を付けてまるで野生の猫のように身を丸くして。

そうしている理由は、ここ最近とても屋敷賑やかで落ち着かないからだ。
ここの所【猫】でいるセバスチャンは、度々見かける身知らぬ人間から身を隠している。



「うー…」


優しい主人のヴィンセントも、忙しいようで構って貰えない。
寂しくて、タナカに構って貰おうとしたら彼ももっと忙しそうだった。
実はレイチェルとの婚約パーティーの準備に、この屋敷は追われていた。
勿論見知らぬ人間というのは、その手の業者だった。

カサ…


響いた葉音に、セバスチャンはそちらへと視線をやる。
ようやく見知った人間、そして彼はとても暇そうに見える。
いそいそと茂みから抜け出ると、その男の元へと歩いていく。




「なっお前はまたその格好でいるのか!?」


彼…ディーデリヒは仕事の都合でイギリスに滞在しており、ならついでにタダ飯でも食べて行けばいいというヴィンセントの言葉につられた…。
騒々しいのが苦手なディーデリヒは、一人静かな庭で休んでいたのだが。
物音がしたと振り返れば、いつかのヴィンセントと乳繰り合っていた男がシャツ一枚でいたのだ。
また破廉恥な格好でいる事に顔を顰めつつも、顔を赤くしていた。
自分の来ていたコートを手早く掛けると、溜息を吐いた。

座っていたディーデリヒの上に座り込んだセバスチャンに、表情を変えず固まっていた。
ゴロゴロと猫がじゃれるようにすり寄ってくるものだから、下半身が熱くなる。


「いや、待て…俺は男色の気はない!」


「?」


「………しかしお前は、本当猫のようだな。いや…寝子か」


自分で言っていて、傷付いたのは見て見ぬふりだ。
目の前の男は、確かにヴィンセントとそういう関係にある事は前会ったときに知っていた事だ。
今更何を傷付いているのか、ディーデリヒは理解出来なかった。
離れる様子のないセバスチャンに、そう言えば今ヴィンセントが忙しかったのだと思い出す。
だからだろう、構って貰えずこうして誰でもいいから相手を探していたのだろう。



「…誰でも、これじゃあまるでアバズ…コホン」


考えていた事を頭から追い出し、震える手で懐くセバスチャンの顎の下を撫でて見る。
気持ち良さそうに目を細め、嬉しそうに微笑むのはまさに猫…なのだが。

(何故俺の股間は臨戦体勢のままなんだ)

目の前にいるのは、ただの猫だと思うのだが…思うのだが。
平常心という文字を頭に描きながらも、目の前の光景から目が離せないでいる。






「あらあら、セバスチャンったら浮気は駄目よー?」


「ひぃっ!!」


背後から掛かった女性の声に、らしくもなくディーデリヒは情けない声を上げる。
そして何故かセバスチャンを抱き締めたまま、後を振り返り後退してしまった。
そこにいた女性は、目を瞬かせたかと思うとふふっと笑う。
そこでその女性が、この婚約パーティーでのヴィンセントの相手だというのに気付いた。



「貴女は、え…?浮気?まさか、知って」


「ふふふ、貴方にならいいわよね。私とヴィンセントは夫婦になるけれど…共犯者でもあるの」


女性と言うのは時折ミステリアスなものがどうたらこうたら言っているのを聞いた事がありが、俺には全く理解が出来ない。…と、瞬時にディートハルトは思った。
とりあえず簡単に説明されたのは、ヴィンセントもこのレイチェルという女性も
互いに愛する相手がいるというが、世間的にそう受け入れられるものでもなく
家柄としても簡単ではない所に、二人は出会った…と。
異性において互いに、それなりに好意は抱いている所から問題はないとか。



「…問題はないのか?」


「当人達がそう思うのなら、そうでなくて?」


よく分からないが…、本人達がいいのならいいのではないだろうかと思う。
それにしても何かいい匂いがすると、ディーデリヒはスンと鼻を鳴らす。
擽ったそうに、それに対し自分の首に顔を埋める何かを思い出す。




「……やあ、ディーデリヒ。私のセバスチャンをいつまで抱いているのかな」


「……俺は服はちゃんと着せろと言ったはずだ、好きで抱いている訳ないだろうっ返す!」


「ん、にゃぃっ」


勢いよく引き剥がしたせいで、セバスチャンから小さな悲鳴があがる。

(何だにゃいとはまるで猫ではないか!!)

そんなディーデリヒの心の叫びなど誰にも届かない。
乱暴に扱われた事に対し、ヴィンセントの笑顔が冷えていく。
それに気付き、レイチェルはあらあらと気楽に
ディーデリヒは、冷や汗を掻く。



「ヒッヒッヒ〜、おやおやぁ面白い光景が見えるね〜」


「…葬儀屋」


嫌な空気が流れ始めた時に、現れた葬儀屋にヴィンセントの視線が逸れた。
ホッと息を吐くディーデリヒに、セバスチャンは首を傾げて見つめていた。

少しだけ手が空いたらしいヴィンセントとレイチェルは、今ココにいるメンバーでのお茶会をとっていた。
何とも言えない光景だが、残念な事に誰もツッこむ人はいない。
相変わらずセバスチャンはシャツ一枚だ(ディーデリヒのコートは邪魔と判断されたようで落とされた)
目のやり場に困るディーデリヒをよそに、他の誰も気にしていないようだった。
特にヴィンセントと葬儀屋に至っては、寧ろガン見している始末だ。
そんな男三人を見て、レイチェルはただ柔らかく微笑むだけだった。





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