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□Once Again
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レイチェルの元を訪れたヴィンセントに、いつも以上に屋敷の者達が歓迎してくれた。
それに対し、やはり…と思った。




「わざわざ来てもらって、ごめんなさい」


「いや、丁度予定もなかったから平気だよ」


「そう?良かった…」


今日はあまり体調が良くないレイチェルは、ベッドの上での迎えを詫びてきたが
別にそんな小さな事を気にするヴィンセントではないし、呼び出しておいて…というのもあるかもしれないが
レイチェルの身体の事は理解している、それにこれから話す内容から―…

どこか申し訳なさそうに、それでも意思の強い瞳をヴィンセントに向け…



「貴方は聡い人だから分かっているとは思うけど、私は…」


「婚約をしたい、かな」


「…うん、そうなの」


やっぱり分かっているのよね。
そして分かっていて、理解してくれているからこそヴィンセントから言ってくれたのだ。
流石にこういった事を、女性から述べるのは少々…



「貴方にも想う人がいるのに、ごめんなさい」


「別に構わないよ、君もそうだ…いつかはしなくてはならないのだしね、互いに」


どうせしなければならないのなら、互いに同じ思いを持つ者同士という方が遥かにいい。
それにお互い嫌いではなく、寧ろ好意的であるからそこに問題はないだろう。
だがレイチェルはこの事をアンジェリーナに伝えたのだろうか…。
ふと思い浮かんだ疑問を投げれば、それに対して返ってきたのは否
思わず眉を寄せてしまうのは許して欲しい
いくら好きあっているとは言っても、全てが分かり合う訳がない。
その為に言葉があり、会話をするのだから

このままでは絶対にアンジェリーナはショックを受け、少なからず心に傷を残すのだろう。
自分はセバスチャンの背中押しとばかりの行動があったからこそ、こうして受け入れるのだから…。



「レイチェル」


「…なあに」


「アンにはこの事を絶対に伝えなさい、後悔する事になるよ」


困ったような泣きそうな表情に、ヴィンセントは苦笑するしか出来ない。
言い辛いのは分かる、その事で悩んだ事を知らせたくないのも。
知ってしまった事によって、アンジェリーナの事で姉のレイチェルが悩みを抱えたと思わせる負担を気にしているのだろう
だがそれを言うのならば、この一番大事な事を伝えない方が良くはない。
コレを伝えず、悩んだ事も胸に秘めるのはアンジェリーナに対して失礼というものだ。

折角明るく笑うようになったというのに、今度は最愛の人からのある意味の裏切りとも言える行為
これは絶対に避けなければならない。

強く言い聞かせれば、レイチェルは流石にそこは思っていたのか頷いた。






「そう、そうよね…私自分の事しか考えてなかったわ」


「うん。ちゃんと話してから私に連絡をくれるかな」


ちゃんと二人で話し合ってから、納得の上でこの婚約は結ぼう。
今日の所はこれで話は終わりだろう、使用人やレイチェルの両親には悪いが
今日の時点での、朗報はあげる事はできない。







予想通り、少し残念そうにしていた皆に見送られヴィンセントは屋敷を後にした。
馬車の中思い浮かべるのはセバスチャン
彼がレイチェルとの出会いを推した面もあるが、改めて言葉にしただろうか…
出来るならば『正気』である彼に、この事を伝えなければならないと思った。

何でも話してきたつもりだったが、肝心な自分がセバスチャンに言っていないではないか。
そうすれば…最近のどこかおかしい様子も、もしかしたら…と思える。



「うーん、何が不安にさせるのかな」


流石にこればかりは、仮定をたてられたとしてもどれが正解かなど分かりはしない。
セバスチャンはきっと、話さないだろう…




「帰ったら、ちゃんと愛してるって言おうかな」


不安になっているのなら、安心させてあげたい
確かに自分はセバスチャンが推した相手と婚約はするけれど、セバスチャンに対する愛が変化する事はないのだと。
ぎゅっと抱きしめて、蕩ける程の愛を注いでその不安を消し去ってあげなければ…。
やはり言葉が何の為にあるか、なんて…伝える為なのだから
使わなければ意味がないし、そうしなければ伝わらない。





君だけを愛してる

君だけが唯一なのだと

言葉にして君に伝えたら、解ってくれるだろうか




悪魔とは言っても、今の彼は不安定で危うい存在だ。
きっと【普通】ですらなくなった事が、苦痛でしかないのだろう。
人間以上に無力に成り下がった事が、彼の精神を更に抉る傷となる。
それでもヴィンセントの傍にいてくれるのだから、それに対し全力で想いを返すだけだ。


「返す…じゃダメかな、うん。私はそれ以上で応えるよ」


もし、今更逃げようとしても、逃がすつもりは全くない。
もっと待つつもりではあったが、そろそろそれも限界だろう。
弱りきった彼にはヴィンセントが今一番想う相手であるから、少しずつではあるが依存してきている傾向がある。
今回このような事が起こってしまったから、お遊びには終止符を打つ。

逃がさないように巻きつけた鎖は、そう簡単には外せない。
ただそれを解けないように、自分に縛り付けてしまえばいい…。
もう他を想う事すら余裕がないように溺れさせてしまいたい。
それが今の一番の願いだったりするのだが、根強く彼の心を縛るものはそう簡単にはいかない。
だが…それでも



「私は、我侭だからね」


想う相手には、やはり想っていて欲しいものだ。



それも他ならぬ、自分だけを。










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