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□Once Again
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「セバスチャン」
手入れの行き届いた薔薇の咲き乱れる庭に、ヴィンセントは声を掛ける。
以前よりは身長も伸び、スラリとした手足に加え羨むような美貌。
浮かべる人の良さそうな笑みは、女性を惹きつける。
社交界でも有名なヴィンセントは、まだ特定の女性もいない事から誰もが声を掛ける王子扱いだ。
「ヴィンセントさま?」
ひょいと白い薔薇の中から顔を出し、セバスチャンは首を傾げる。
手にいっぱい薔薇を抱え、ヴィンセントに駆け寄ってくる。
ふわりと笑みを浮かべ、迎え入れる。
その笑顔は誰もが見ているような余所行きなものではなく、心からのもので―…
それを見る事が出来るのは、そうそうないのだが。
「きょうは、ごごよていがあると」
「んー…そうだったんだけどね、あまり体調も良くないからと断ってしまったんだ」
「え?ヴィンセントさま…どこかぐあいがよろしくないのですか?」
心配そうに覗き込んでくるセバスチャンに、ヴィンセントは苦笑しながら抱き締める。
あわあわと慌てたように目を泳がす様子に、薔薇を潰しそうになっていた事に気付く。
ごめんねと呟いて、そっと身を離す。
今までヴィンセントの隣に立ちたいと思う女性は多く、夜会だけでなく家に来たいとまで言う者も少なくはなかった。
勿論特に何もないのであればやんわりと断るのだが、それなりの権力もあり父親の方まで関わりがあれば断り辛いものがある。
何度か家へ客人として女性を招きいれた事があるが、殆どの者が何故かセバスチャンと遭遇するというアクシデントが起こってしまう。
勿論タナカも気をつけてはいるが、客人の持て成しもあり目を離さない訳にもいかない。
そういう時に限ってセバスチャンは『猫』である時が多く、『子供』の時でも遠目で見つかる事ばかりだった。
『あちらの方はどちら様ですか?』
近かろうと遠かろうと美しいモノには目がないのか、瞳を輝かせ問いかけてくる。
いっその事愛している相手だと言ってしまえれば、どれだけ楽な事か。
会話の中で、セバスチャンの言動の事が出れば大抵が可哀想だと言って来る。
…正直、失望する。
何かをその女性に求める訳ではないが、可哀想などと言える程彼女等は知らないし
ヴィンセント自身が、そう言ってほしくはない。
まあとりあえず、色々な女性が来たのだが
その度セバスチャンは『猫』の時は近寄ってきてもくれなくなる。
その相手が言ってしまえば性格があまりよろしくなかったりと、ヴィンセントとしても絶対お断りの相手だったりするのだが…。
「お茶にしようか」
「あ、はい」
拗ねたり嫌がったりしてくれるのが、嫉妬されているようで嬉しくてたまらない。
しかしこういう反応では、血を残すなど到底出来ないのではないだろうか。
セバスチャンと一緒にいることが幸せ過ぎて、それ以上が望めそうに無い…。
「おてがみですか?」
「ん?うん、今回のは仕事柄のパーティーだから余計に断れないからね」
何通か届いている手紙に目を通しながら、セバスチャンとのティータイムを楽しむ。
ふと静かだと思い、手紙から顔を上げればじっと一つの手紙を見ていた。
至ってシンプルな、沢山の中にあるその手紙…
セバスチャンはヴィンセントに見られていると気づくと、ハッとしたように目線を逸らした。
「その手紙がどうかした?」
「・・・えと、なんとなく…めがはなせなかったので」
その言葉にヴィンセントは、その手紙を手に取る。
差出人は最近よく表の仕事で世話になっているところで、珍しく気に入っている家だった。
確か彼には2人くらい娘がいた筈だが…。
セバスチャンが今までこんな反応をした事はなく、何かがあるのだというのは理解できる。
だがそれが一体どんな事かまでは、流石に分からないのだが…。
「ヴィンセントさま」
「ん?」
「パーティー、きをつけていってきてくださいね」
きっと、楽しいパーティーでしょうから。
何故気になるのか、それはなんとなく理解できる。
いつまでも自分ばかり構っていては、ヴィンセントにとっても良くない。
それが家の事だというのも、分かっている。
出会うべくする、運命の相手がいる
それはきっと・・・
―――も、同じで…
「あれ?」
「セバスチャン?」
「あ、いえ・・・なんでもありません」
今何を考えたのか、誰を思ったのか。
思い出せそうで、思い出せない。
もしかしたら知らない事なのかもしれない
記憶が抜け落ちている時に、会った相手なのかもしれない。
時折途切れる記憶は、次に目が覚めた時でも思い出せない。
そして最後に意識を保っていた時より、日にちが経っている事がほとんど。
特に何もないよと言ってくれるから、迷惑は掛けていないのだろうけれど・・・。
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