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□Once Again
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「どうだった?」


「……ジェフ」


ファントムハイヴ家を出て、走り去るように街へと向かった。
いつものように裏路地へと、当たり前の通路を歩けば
先に見えたのは壁に寄りかかり、ジッと此方を見るジェフだった。
ロイスは唇を噛み締め、俯く。



「…クロは、絶対連れ戻す」


「…そうかよ、ま…頑張ってみろや」


「……止め、ないのか?」



子供には無理だ、相手の事もしらないくせにと言われるものだと思っていたのに…
顔を上げてジェフを見れば、呆れたような顔をしながらもその目は真剣だった。
それがどういう意味なのかまでは、ロイスには到底理解出来ない。



「俺は一切手を貸さない、助言もだ…お前一人きりという事だぜ?」


「っ、いい…元々そのつもりだった」


心のどこかで期待していたのか、ジェフの言葉に一瞬詰まる。
皆の中で一番年上だからと、守らなければと口では言っていても
それが現実どれ程無意味で、無力な事かは思い知っていた。
だがいざ一人きりでという道に立たされ、ロイスは足が震えそうになる。

思い出すのは先程まで話していた、ヴィンセントという貴族。
冷たく、心臓が止まるのではないかというほど重い空気の中
平然と見下ろし、笑みを浮かべる男。
だが引き下がるつもりは毛頭ない、ロイスは進むだけだと唇を噛み締める。



「あと数年だけなら、一緒に暮らす事は出来る」


「は?」


「甘ったれなお前が、一人で生きる為の術を学ばず今放り出してどうなる」



一人で生きれるようになるまで、生きる事なら教えてやる。
ただそう言っている…勿論それに、生きる術以外の事は教える事はないと言外に言っているようなものだ

別にそれで構わない、自分がする事はジェフには関係のない事で
未熟な自分が生きていくのに、手助けをしてくれると言ってくれている
それを喜んで受け入れなくて、何が出来ようか―…



「ありがと、ジェフ」


「どう致しまして」


ニカっと笑ったジェフは、本当男前だった。


ジェフとしては、このまま放り出し碌な人間になられても困る。
育ててきた情もあれば、自分もそこまで腐った男ではない。


















ヴィンセントは椅子に深く腰掛け、溜息を零す。
その様子にタナカは紅茶を差し出すと、一礼し部屋を後にする。
傍にいたセバスチャンが、不思議そうに首を傾げ見上げてくる。



「セバスチャン、床に座ってないで此処においで」



床に座り込んでいたセバスチャンを、自分の膝の上に誘導する。
どうやら嬉しいらしく、笑顔で擦り寄ってくる。

此処最近ヴィンセントは夜会でのお誘いに、正直うんざりしていた。
娘を持つ誰もが、さり気なくヴィンセントに勧めてくる。
ストレートに自分の娘なんてどうだ、なんて言う輩もいるが。
今のヴィンセントには、セバスチャンがいて
それ以外の事など考えられそうにもない、どんなに条件が良くとも上手く交わすよう努力を重ねる。



「いつかは、というのは仕方がないんだけどね」


「?」


「何でもないよ、仕事が一息ついたら庭を散歩でもしようか」


セバスチャンの頬を撫で笑いながら言えば、その手に擦り寄る仕草に悶えそうになる。
ここ数日のセバスチャンは『猫』らしく、ずっとこんな調子だ。
たまに調子が悪いようで、ベッドで蹲っている事があるが
原因は知った事で、その度夜身体を重ねる



「せ、セバスチャン…、ええと。ちょっとソファで大人しくしていてくれるかい」


指を甘噛みし始めたセバスチャンに、ヴィンセントは焦りつつも冷静にソファへ移動させる。
言われた通り大人しく、ソファでコロンと横になっている。
小さく息を吐き、机に広げられた書類を手に取る。
まだ指先に甘い痺れが残っているのに、苦笑する。
どうしても『猫』であるセバスチャンを相手にしていると、こういった仕草が多く
夜の情事の時を思い出す事が、極端に多くて困ってしまう。




「…」



こういった地位は時として不便だ。
こんな状態では、いつかあの子供…ロイスに奪われても仕方がない。
だが血を残さないというつもりはないのだから、余計に面倒だ。

いかに足場を固めるべきか…






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