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□Once Again
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「やあ、久しぶりだね」


「全くだな、それにしても何だ・・・急に呼び出しなんて」


表のスケジュールにはない客人は、不機嫌そうに顔を顰めつつも
ヴィンセントが無意味な事をする訳がないと、問いかける。


「ディーデリヒ、少しはゆっくりしたらどうかな」


用件をさっさと言えとばかりに見ていれば、微笑し肩を竦める。
大抵の人が強面だとか不機嫌そうだとかで怯えを見せるが、それが全くないヴィンセントに対しそれなりに好感を持っている。
・・・流石に本当に虫の居所が悪い時でさえ、マイペースなのは気に入らないが。



「前回君が担当したやつがあっただろう?」


「ああ、あれか・・・何だ、不備でもあったか」


完璧に仕事をするのが当たり前のディーデリヒにとって、それは許せない事になる。
そんな様子のディーデリヒに軽く首を振る。
仕事は完璧だった、不自然になる事なく自然に片付けられた事だった。
それでも今回呼んだのは、それに関わる事に違いはなく。



「少し頭の足らない人がいたんだよ」


「・・・」


「どうなるか目に見えているのに、猿真似をして悦に浸る…愚かだと思わないかい?」


前回の事件というのは、所謂人身売買だった。
それも悪質な臓器密輸も関わっていて、それがディーデリヒのいるドイツにいる人物が総元ともなれば担当は自分になるのは明らかだった。
今回のこれは裏の人間にとって、多少なりとも打撃を与えたのだが・・・
目の当たりにしたにも関わらず、同じ事をしている馬鹿な輩がいるという事。



「お前が言うという事は、殆ど手口が同じという意味だな」


「うん、そうだね・・・簡単に足がつくというのに同じ。これは単なる真似事か、それとも罠か・・・どちらか―」




カタン―・・・


聞こえるかギリギリの小さな物音に、二人は会話を止める。
勿論タナカが侵入者を見逃す筈はなく、あれば何らかの連絡がある。
それがないという事は、この物音の原因はヴィンセントの良く知る人物の仕業。
ふと・・・あれ?と思う。

恐らくタナカはお茶を淹れる為に厨房だ、勝手に抜け出しここまで来たとすれば・・・



「何だ、誰がいる」


「あ、ディーデリヒ待っ・・・」


「・・・な、」


ガチャっとノブを回し、ヴィンセントが止めるが既に遅く
ドアの向こうにいたセバスチャンは、初めて見る相手を珍しそうにジッと眺める。
それに対しディーデリヒは固まった、それもその筈・・・。
セバスチャンはシーツ一枚身を包んだ状態、中は勿論裸だ・・・それもキスマークの散らされた肌はどういう事かなど分かりきっている。

いつも顰め面が、赤くなって固まる様子にヴィンセントは溜息を吐く。



「セバスチャン」


「・・・」


ヴィンセントの声に反応し、セバスチャンは覚束ない足取りでディーデリヒの横をすり抜けヴィンセントの元へ歩いてくる。
ソファに腰掛けたままのヴィンセントに跨り、擦り寄ってくる。
喋らない事から、正気でも幼児のような人格ともまた違うのだと理解する。
この時のセバスチャンは、声は出しても喋る事はあまりなく・・・仕草は子供というより猫と例える方が近い。
擦り寄る様子に可愛いと思いながら、背や頭を撫でているとディーデリヒが漸く正気に戻ったらしい。



「おい!ソイツは何だ!!」


「おっと、大丈夫だよ・・・ディーデリヒもう少し声を抑えてくれ」


「・・・悪かった」


ビクっと身体を跳ねさせ、ぎゅっとヴィンセントにしがみついたのを見てディーデリヒは素直に謝罪する。
宥める様子を見て、忘れていた怒りが込み上げてくる。
呼び出した理由は分かった、これは自分が担当するべき事だというのは・・・
それよりこの静かな空間に、甘いオーラが漂っているのが許せない。
許せないというか、羨まし・・・



「俺は何を・・・」


「ディーデリヒ?」


「ん、あ・・・何でもない。それよりソイツだ」


ビシッと指差したのは、まるで猫のようにゴロゴロ甘えるシーツ一枚の裸の・・・男
ああ、と何でもない事のようにヴィンセントは笑う。


「前回は葬儀屋の代理だったけど、今は私の家に居候している身…かな」


「そうじゃない!どういう・・・もういい、つまりアレか?そういう相手という事か」


「ん?それは違うよディーデリヒ」


見るからに夜の相手というのが分かり、自己完結しようとしたが
ヴィンセントがそれを否定する、きょとんとした表情で。
こめかみがヒクつくのを抑え、ヴィンセントを見遣る。
この状況で、状態でそれじゃないというのならば一体何だというんだ。



「私はちゃんとこの子を愛しているからね」


「・・・子、という年齢には見えないが。は?お前・・・男色だったか?」


「まさか、セバスチャン限定」


何を馬鹿な事を言っているんだいと笑われ、その綺麗な面を殴りたくなる。
実際には絶対殴りなどしないが・・・、気分だ気分
ディーデリヒは一気に疲れを感じ、最初に座っていたソファに腰掛ける。

目の前で乳繰り合う・・・いや、仲のいい様子を改めて観察する。
見た感じの年齢的に既に成人しているにも関わらず、言動があまりにもソレとかけ離れているのに疑問を持つ。
以前会った時も確かに年齢に合わぬ言動ではあったが、今ほどでもなかった筈だ。
何か病気かなにかなのかと思っていると、そこで左腕に気づく。

不躾だったか…と、眉を顰めつつも、これ以上掻き回す様な事を言うほど無神経でもない。



「そもそも、何故そういう関係になったんだ」


前回会った時にはなかった、ヴィンセント自身の雰囲気。
それほど大切な存在なのなら、もしかしたら苦労の末の―・・・


「うーん。人身売買の会場で「何だと!?」


ロマンティックな考えを持ったのが間違いだったのか、人身売買という言葉に思わず立ち上がる。
それに驚いたのかセバスチャンが再びヴィンセントに怯えるように抱きつく。
それに罪悪感を覚えたが、それどころではない。
目の前の飄々とした様子のヴィンセントに、腹が立って仕方がない。



「話の途中じゃないか、それに私が人身売買なんてする訳がないだろう」


「・・・そうだったなっ」


「告発した会場で売りに出されていた所に来る前は、知り合いの孤児が集まる場所にいたんだけど」


そこでまあ、一目惚れ
その後見つけて、気づいたらいなくなっていて。


「―・・・で、その葬儀屋の家より此処がいいとソイツが自分で選んで今に至ると」


「そういう事」


「・・・身よりもなく、自分で選んだのなら俺は何も言わん」


きょとんとした表情で見上げられ、うっと言葉に詰まる。
確かにヴィンセントがハマる理由も、納得が出来る。
男色の気がなくとも、その気にさせる雰囲気がある。




「・・・俺が言いたいのは、人が来る時は服を着せておいたらどうだ」


そうだ、とりあえずそれが言いたい。





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