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□Once Again
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連れて来られたのは、屋敷の中でも上の階の奥にある部屋だった。
静かにそのドアが開けられるのを、ただ静かに見つめる。
何も言われずとも、その先に何があるかなんて分りきった事だった。

暗い部屋の奥には、ベッドが月明かりに照らされて幻想的に浮かび見えた。
不自然に盛り上がったシーツは、そこに誰か寝ていると分るもので…



「…ぁ」


ヴィンセントが部屋に入り、ベッドへ近づくと小さく声を掛ける。
ただ小さく声を漏らし、ロイスはその光景を見ているしか出来ない。
反応を示したシーツの固まりが動き、ハラリと滑り落ちた。
見間違う事のない、その人…



「セバスチャン、起きれるかな」


「ん…ヴィンセント、さま?」


初めて聞いた声は甘く、ズクリと疼く何かを呼び起す。
自ら行動する事がなかったクロ…セバスチャンが、目の前で自分ではない相手に甘えるような仕草。
会えたという喜びと同時に、何故そこにいるのが自分ではないのかという怒り。



「…、ろい…す?」


「っ」


気付けばヴィンセントはロイスの事を話したのか、セバスチャンはロイスを見て首を傾げる。
呼ばれた…自分の名前を、あの声で

欲しい、と心が叫ぶ
あの存在が、自分だけのものであればいいと…



「あ」


「まだ疲れているね、もう少し寝てごらん」


「ん…」


漏れた声は拾われる事なく、セバスチャンは綺麗な赤の瞳を再び瞼で隠してしまった。
茫然としているうちに、ドアの傍まで戻ってきていたヴィンセントによってその扉は閉じられた。
ハッとして見上げれば、そこには先程の甘さを消した冷たい眼が見下ろしていた。

先程とは打って変わり、ただただ恐怖が身体を支配する。



「現実はどうだい?」


「…」


「これでも君は認めないと」


「…」


言葉が出ない、ただココで間違った答えを述べたのなら生きて帰れそうにないと思った。









「俺、は…認めない」








そうだ、何が正しかろうと
彼が自分の傍以外にいるのが許せない、傍におきたかった。
あの声を、アノ瞳を、全て自分だけに向けてくれたらと…

あまりにちっぽけで、弱すぎる自分ではそれが無理なのだと痛感した。
ならばどうするか、いつか必ず取り返すだけのこと。
彼が嫌がるのなら、認めさせれる事の出来る人間になればいい。

それまで、あの男に、預ける
ただそれだけの事だ。



















「お帰しになられたのですね」


「うーん、中々手強いライバルになりそうだね」


クスリと笑いながら、窓の外を見下ろす
小さくなっていくロイスの後姿を見て、遠くない未来また対峙するのだろうと思う。
その時あの子供はどう成長するのか、それとも愚かに堕ちるのか。
何にしろ、アレの事を知った時完全に敵対する事になるだろう。
あの子供の性格上、和解という言葉は存在しそうにない。

ずっとあのままならば…

そのどちらでも、ヴィンセントにとってはどうでもいい事なのだが…。



「ああそうだ、タナカ明日の午後は予定なかったよね」


「はい、旦那様が空けておくようにとおっしゃられておりましたので」


「うん、予定通り午後から客人が来るからもてなしてあげてくれるかな」


表向きの客人ではないのだと、暗に告げていた。
タナカは畏まりましたと一言残し、静かに部屋を後にした。

ベッドで眠るセバスチャンの傍に腰を下ろし、ヴィンセントは書類を整理する。
机でやればいいだけの話なのだろうが、どうも離れ難いというのがある。
特にペンを使う必要もない場合、こうしてセバスチャンの傍に常にいる。
自分を良く知る者が見れば、頭オカシクなったのではないかと疑われそうな光景かもしれない。

言っておくが、自分は好きなものはとことん好きだし
嫌いなものやどうでもいいものはすぐに忘れるし、見向きもしないのだ。
必要に応じて要求される場合を除が・・・



「ふう・・・何か勿体無い気もするなあ」


書類から目を離し、横に置くとセバスチャンに視線を向ける。
スヤスヤと眠る様子に笑いながら、その柔らかい髪に触れる。
今まで誰かの髪に触れた事はあるが、ここまで触り心地のいいのは初めての事だった。
ずっと触れていたい、そう思うのはそれがセバスチャンだからなのだろう。



「まさに、君に首っ丈って感じかな」


指を髪に絡めたまま、再び書類に視線を落とす。
もう少ししたらひと段落着く、そうしたら抱きしめて眠ろうか・・・。
そう思ってしまう自分に、苦笑しか出来ない。
先程の甘い蕩ける様な空気がたまらなくほしくなる。

ある程度制御しなければ、自分がやられてしまいそうだ―・・・












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