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□Once Again
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「旦那様、少々宜しいでしょうか」


「んー…ああ、タナカか。どうした?」


「先程小さなお客様がいらっしゃいましたが、いかがいたしましょう」



小さな客人
その言葉にヴィンセントは笑って、ベッドから身を起す。
シーツには包って小さく寝息をたてるセバスチャンが、多少疲れた様子で寝ていた。



「こんな格好では失礼だからね、着替えるよ」


一糸纏わぬ姿だというのに、恥らう事もなくタナカの差し出した服を手に取る。
服を身に纏うと、眠っているセバスチャンにキスを落とし部屋を出る。


「今は何処に?」


「今は裏口から入られまして、厨房からホールへの通路です」


居場所も簡単に分るように忍びこんできた客人に、ヴィンセントは思わず苦笑を零す。
なんと幼稚な事だろうか、これで相手が極悪人だとしたら一瞬で命を奪われていただろうに…。
甘すぎると思った、まだこの世界では生き抜けやしないとも



「さあ、お出迎えしようか」


小さな客人を―…














「…」


煌びやかでありながら、品のないものとは違い何処か品格のある内装
普段であれば何かしら手を出しただろうが、今はそんな事はどうでもいい。
欲しいのは金目のものではなく、大切な人だから。
ドクドクと脈打つ心臓が、音が聞こえやしないかと不安になる。
震えそうになる足を叱咤し、足を進める。

こんなにも大きな屋敷だというのに、使用人の一人もすれ違う事がない。
それがいかに異常な事なのか、冷静さを欠いているロイスには分らなかった。



「は、…なんだ拍子抜けじゃ―…」


「やあ、いらっしゃい」


「っっ!!!」


気を抜いた瞬間掛けられた声に、ロイスはビクリと跳ね声をした方を勢いよく振り向く。
そこにはあの時の貴族が一人、笑顔で其処に立っていた。
傍に控える老人の使用人以外、誰もいない…無防備な姿。

その姿を確認すると、驚きから怒りへと変わる。
コイツが自分からクロを奪ったのだと…



「返して、もらいにきた」


「返す?私は君から何か盗ったかな?」


「っとぼけるなよ!!」


肩を竦める様子に苛立ち、腹部の辺りに隠し持っていたソレを取り出しヴィンセントへと向ける。
その手に持つ物を見ても、顔色を変える事なくロイスを見つめてくる。
ただ先程と違い、その目に冷たさを感じゾクリと悪寒が背を撫でる。

カタカタと震えそうになる手で、必死に落とさぬよう構える。



「…君はソレを向ける意味をちゃんと理解して、それで向けてるのかい?」


「は?あ、当たり前だろ!」


「玩具じゃない、人殺しの道具を手に持つと言う事はね、ロイス」



銃を構えたロイスは、優位に立っている状況であろうに
ヴィンセントの纏う雰囲気に気圧される
ぐっと指に力を込めた瞬間、身体に何か衝撃を受ける。
何が起こったか理解できず、ただ遅れて感じる身体の鈍い痛みに息が詰まる。



「殺されても、仕方がないって事だよ」


冷たく言い放たれた言葉と共に、自分の状況が理解できた。
ヴィンセントの後に控えていたタナカは、いつの間にかロイスの背後にまで回っていた
銃を取り上げられ、腕を捻り上げられると同時に床に押さえ付けられていたのだ。

その気になれば、簡単に自分が殺されていた状況だというのを認めたくはないが
頭の何処かでは理解出来た、感情までは追いつかないとしても



「ぐっ…ぅ、クソッ!!」


「一つだけ言っておくけどね、クロ…今はセバスチャンという名前だけど、彼は自分でココに来る事を望んでいた…これは事実だよ」


「う、嘘つくなよ!大体、お前の言う事を信じる馬鹿がどこにいんだよ」


存在を奪われただけでなく、自分が付けた名前まで消されたと…
酷く喪失感が胸を襲い、目の前の誰もが敵に見えてくる。
目の前に来るものは全て邪魔者でしかなく、射殺さんばかりに睨みつける。
そんなロイスの様子に、小さく溜息を吐きヴィンセントはタナカへと視線を送る。

その意味を正しく受け止め、タナカは静かにロイスから手を離す



「…は?」


「君は思い込みが激しいとジェフにも言われているだろう、目で見て耳で聞いた事なら受け入れるかい?それすら出来ないのなら最早コミュニケーションどころじゃない」


立たされ、何処かへ連れて行くようだ。
今ココで暴れるのは得策ではなく、どうせ暴れた所で後にいるタナカにより取り押さえられるだろう。
ロイスは警戒をしながらも、ただ黙って従うしか出来なかった。












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