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□Once Again
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「……」
ベッドにまるくなって、まるで猫のようだと微笑みかける。
昨晩は色々と焦らしすぎたせいか、お疲れらしい。
全く起きる気配もない、久しぶりに【彼】と会話して気が高ぶっていたのかもしれない。
セバスチャンは精神の不安定さから、まるで人格交代のように変わってしまう事がある。
けれどどのセバスチャンも、セバスチャンである事には変わりなく
ヴィンセントにとってどの彼も愛おしく、大切な存在である事には変わりない。
「君は気づいていないようだけど…」
きっと言葉にしなければ分からないだろう
けれどきっと、言葉にしても伝わらないかもしれない。
何かを失って、自分さえも保てなくなる程の辛さがあった。
そんな彼にまた新しい『愛』をあげたとしても、怯える君は逃げるように拒絶するかもしれない。
少しずつ、少しずつ…慣れさせて、抜け出せなくなるまで甘やかして
この手に堕ちて来てくれたらどれだけいいか…
「まあ、まだまだ時間はあるからね…セバスチャン」
「…ん」
ちゅっと音を立てキスをすれば、むずがるような仕草をする。
ああ、きっと起きたら君は【彼】ではなくなっているんだろう
甘いひと時を噛み締めながらも、机に置かれた書類に溜息を零しそうになる。
お世辞にも綺麗とは言えない字で書かれたソレは、情報屋であるジェフからだった。
セバスチャンがファントムハイヴ家にいると知った彼は、やはりあまりいい顔はしなかったが本人の希望と知れば頷かざるを得ない。
彼が言いたいのはそれではなく、ロイスの事だろう。
あの単純なジェフがポロリと零したお陰で、ロイスにもセバスチャンの居場所がバレてしまった。
当然自分とは多少面識もあり、あの時は本当に知らなかったとは言えきっと信じてもらえはしないだろう。
『取り返すだとか、攫われたとか聞く耳もたない。近いうちにチビな嵐がそっちに行くかもな』
思い込みが激しいのだと、苦笑しながら言っていたのを思い出す。
「うーん…この様子だと、まだあっちの事には気づいていないのかな?」
殴り書きのような手紙を見ながら呟く声は柔らかいが、その目は冷たく真剣そのものだった。
「愛に溺れた男も怖いって事、ちょっと教えてあげようかな」
手紙を放り、ベッドまで戻る。
キシっと音を立てスプリングが弾む
眠ったままのセバスチャンの頬に掛かる髪を梳き、頬へと唇を落とす。
独占欲がこれほどまでに自分にあるとは、セバスチャンと出会わなければ知る事もなかっただろう…。
さあ、あの子供はどうでるか
復讐者として闇に染まるか、それとも白馬の王子を夢見る子供として生きるのか
生憎そこまで先読みまではしようとも思わないが、どちらにしろ厄介ではある。
「これから忙しくなりそうだ」
自分がセバスチャンにオちた様に、きっと他にも同じようにオトされていく憐れな人間が出てくるだろう。
渡す気はないが、少々面倒だ。
だがそれでも顔に浮かぶのは疲れではなく、ゲームを楽しむような笑みだった。
「さてと、忙しくなる前に今の内に楽しんでおかないとね」
ニコリと微笑んで、眠っているセバスチャンに遠慮する事なく深くキスを落とす。
呼吸が乱れてくるのを確認し、綺麗に着せてあったシャツを再び肌蹴させる。
白い肌に浮かぶのは赤い花、自分の印を見てヴィンセントは苦笑する。
異様なほどの数に、どれほど執着しているのかが目に見えて分ってしまう。
恐らくセバスチャンを欲しいと思う相手ならば、怒り狂う事間違いない。
あの少年も、恐らく―…
*********
ロイスは酷く荒れていた
一緒に過ごしてきた仲間は全員が捕らえられ、無事に戻ってきた子も怯え精神的に弱りきっていた。
そんな中守ると誓った筈のクロさえも、無力な自分のせいで連れ去られた。
それだけでも許せないというのに、ジェフに対しても怒りを感じていた。
何故、やり返さないのか
犯人なんていうものは、分りきった相手だというのに。
貴族なんて生き物が、この世に存在する事が今のロイスにとっては許し難いことだった。
全員がそうでないとしても、そんな事ロイスには関係がない事。
「アイツ…」
思い出すのはジェフが連れてきた、信用できるという貴族の男。
クロの居場所を知らないと言った、それを信じた自分。
ジェフが言ったからと信用した、そんな自分を恥じていた。
結局クロが今どこにいるか、なんとあの男の所ではないか。
ジェフが嘘を吐いた?そんな事をして何になる
自分達を拾い育ててくれたのはあの男だというのに
ならば簡単だ、あの貴族の男がジェフを騙し自分も騙した。
それを簡単に信じた己の未熟さにも打ちひしがれていた…。
「ちくしょうっ!!!」
路地裏にあったゴミ箱を蹴飛ばし、息を乱す。
貴族相手に何を手加減する必要がある、ロイスは睨み付けるように大きな屋敷を見上げた。
「待ってろよクロ、俺が助けてやるから…今度こそ守るからな」
ぎゅっと腹部を服の上から握り締めた。
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