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□Once Again
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昔シエルに仕えていた時のようには、上手く出来ない。
不安定なまるで不良品の玩具の様な精神は、自分が自分でいられなくなってしまった。
自分は平気なのだと思っていたというのに、この様だ。


気づけば知らない所にいるというのは当たり前で、段々と間が空く時間が増えてきていた。
いつかこのまま自分という人格が消えるのではないかと思っても、特に恐怖というものは感じなかった。
ココに【彼】がいないというだけで、こんなにも空しいものなのか…
ただそれでも、『自分』を好いてくれているであろう人がいる
それを思うと、やはり寂しいと感じてしまう。

きっとその人にとって、本当の人格である時の自分と初めて会った訳ではないのだから
この人格でなくても、別に構わないのだろう





「―…ン、セバスチャン」


「っ、はい」


「どうかしたかい?ボーっとしていたけれど」



君にしては珍しいねと笑うヴィンセントに、そういえば今は自分だったと思い出した。
心配そうに見つめられ、居た堪れなくなる。
そんなキレイな感情を向けられる様な、綺麗な生き物ではないのに。

ついでに言えば、今は左腕さえも欠けていて醜さに拍車かかっているようなものだ。



「さあ、入ろうか。タナカが紅茶を淹れてくれるから」


右手を引かれ、それに静かに従った。
ココでのセバスチャンの立ち位置は微妙だ…
客人でもなく、家族としてでもない…
下世話な噂が好きな輩なら、恐らく夜の相手や愛人といった話をするだろう。
もう同性だとかそういものは当たり前で、ただそこまで大っぴらにしないだけの事だ。

恐らくは、ヴィンセントが自分に向ける感情にはそういった類が含まれているのは理解している。
別に拒むつもりはないが、本当に受け入れていいものかも悩む所

愛しているのは…小さき主、未来に生まれる筈のシエル・ファントムハイヴ
想う人がいるというのに、ヴィンセントにも惹かれる自分がいて
とても卑しく思えてくる
こんな強欲な人間を今まで、それがいかに惨めかその結末を見てきた。


ならばいっそ、胸の奥に仕舞い込んでしまえばいい…






「…セバスチャン?」


「…え」


伸ばされた手、頬に触れる温もりに胸が高まる。
その指先が掬うものに、思わず息が止まる
冷たい何か、濡れた指先には雫があった。



「何か悲しい事でも思い出していたのかな」


「…」


何故涙など流しているのか、隠さなければならないと思った矢先に…

どうして…

どうして貴方が、苦しそうな顔をするのですか?





飽きが来るほど生きてきました、けれどやはり人間とは理解しがたい生き物ですね
こんなにも近い…傍にいても、分からないことだらけなんです。




「な、んでも…ありません」


「んー…そうかい?ああ、ほら…涙を拭こう」


ぽふっと身体を温もりが包む、気づけば抱きしめられていて身動きが取れなかった。
まるで子供をあやす様に頭を優しく撫で、抱きしめてくれていた。


「あっあの!大丈夫ですから」


「私がこうしたいんだよ、構わないよね?」


疑問系で聞いておきながら、否と言わせない何かがある。
諦めてされるがままにしていると、ヴィンセントは嬉しそうに笑った。
目が溶けちゃうからと意味不明な事を言って、目尻にキスをされた。
突然のことに固まっていると、まるで悪戯が成功した子供のような笑顔で見つめられていた。


「元気も出たみたいだね、じゃあ行こうか」


「はい…」


少し赤くなった顔を隠すように俯くが、きっと気づかれているだろう。
ああ、やっぱり暖かい存在は苦手です。

弱くなる自分がいる

甘えてしまいそうになる

それでもどうすればいいか分からない、まるで迷子の子供のようだ。



「そうだ…このまま、こっちのご飯もしよう」


「はい……え?」


「ちゃんと了承の返事は貰ったからね」


はい、残念でした。

あの…笑顔のままお尻を撫で回すのは止めていただけないでしょうか…


どうして?


ど、どうしてって…その







パーティーにいらしたヴィンセント様は、やけに肌がツヤツヤしていたみたいに見えました。
byどこぞの貴族のお嬢様





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