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□Once Again
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白いシャツに、黒のスラックスといった至ってシンプルな服装で青年は庭の薔薇をジッと見ていた。


「セバスチャン」


セバスチャンと呼ばれた青年は、数日前まではクロと呼ばれていた。
偶然か必然か…それは定かではないが、再びセバスチャンという名を貰う事となった。

名前を呼ばれ、スラックスについていた草を払い自分を呼んだヴィンセントの元へ歩いていく。



「本当、君は外見と言動のギャップがすごいよね」


「?」


「ああ、いいんだよ一人言だから」



見た目は人目を惹く美系で、年齢も大人と変わりないと言うのに…
幼い子供のように不安気に揺れる瞳や、仕草はそういった思考の持ち主なら放っておかない類だろう。

セバスチャンは葬儀屋の元から此処へ来てからも、変わらぬ様子で毎日過ごしている。
ただ不安定さがあるせいか、本当に子供のような時もあればフラフラとまるで夢遊病にかかったような状態になる時、抜け殻のように反応がない時もある。
難しい話しは解らないようで、今のように首を傾げ困る時も多々あった。



「ほら、冷えてきたからこれを着るんだよ?」


「はい…あの、ヴィンセントさまは?」


「ん?ああ」


薄手のコートを掛けてあげれば、セバスチャンは自分よりヴィンセントの心配をする。
言ってしまうならば、悪魔である彼とは感覚が違うかも知れない。
それでもそれはヴィンセントにとってはどうでもいい事で、大切な人に対する対応に変わりはない。



「あっ」


「ほら、こうすれば寒くないだろう?」


ニッコリと微笑んで、ぎゅっと抱き締める。
身長はセバスチャンの方が高いので、あまり格好はつかないが…。
ピクリと反応したセバスチャンの纏う雰囲気が変わった事に、ヴィンセントは僅かに身体を離す。



「あの、旦…「ヴィンセント」


旦那様と紡がれかけた唇を人差し指で、そっと押さえる。



「ヴィンセント様、私は風邪はひきませんので…どうかご自愛下さいませんか?」


以前も言いましたよね、とその目が語る。
本当にいつどう人格が変化するか、パターンが全く似通わないのでいつなるかは分からない。
正気になっている彼は、悠然としていて…だがそれでも心配する色が見える。
どこか一線を引かれたような所が、正直言うと不満に思うが…
このままでいる事は恐らく自分には出来ない、きっと何処かでその一線を超えようとしてしまうだろう。



「ふふ、君に構って欲しいからこうなのかもね」


「え?」


「気付いているんだろう?気付かないフリかな?」


抱き締めたままの身体を少し力を込めて抱き締める。
その瞳は動揺しているようで、頼りなさ気だ。
セバスチャンが自分を通して誰かを見ているのは知っている、それがファントムハイヴと関係が深い人物だというのも分っている。
昔彼が出会った先祖なのか、そこまでは分からないが…。



「…ああ、そんな顔をしないでほしいな。私は別に困らせたい訳じゃないんだ」


よしよしとまるで子供にするように、頭を撫でられる。
その行為にセバスチャンは目を瞠って固まった。
おや?と思うものの、一度始めてしまった行為を急に止めるのも…
ふっと身体の力を抜いて、ヴィンセントに任せてくる。
もしかしたら頭を撫でるという行為は、知らぬ『誰か』を思い起こさせるものだったのかもしれない。

…だとしたら失敗した
だがだからといって、したい事をしないのも気に入らない。
とりあえず今は、自分に負担ない程度により掛かっているセバスチャンに満足しておこう。



「甘えてくれているのかな?だとしたら嬉しいけど…もしかしてお腹でも空いたのかい?」


「えっ?ち、違います!」


顔を赤くして焦るセバスチャンに、満足そうに笑う。
悪魔なのだから自分よりは遥かに年上で、人間とも関わってきたならば扱いだって簡単だろうに…
それでも取り乱すことが出来た事が嬉しく、まるで子供みたいだと苦笑する。

赤くなるのはお腹が空いた=性行為だからだろう。



「ほら、セバスチャン」


「?」


「本当に冷えてきたし、そろそろ中へ入ろうね」


右手を絡め取るように握ると、手を繋いで屋敷へと戻る。
どうやらこの行為は正気の彼は初めてだったようで、瞬きの回数が普段より多い。
我ながら良く見ているなあと関心しつつも、繋いだ手の少し低めの温もりに喜びを感じていた。

前を見ていたヴィンセントは、セバスチャンが眉を下げながらも微笑んでいた事は知らなかった。



(この方の温もりに安堵してしまうのは、坊ちゃんの親だから…だけではないのでしょうね…)







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