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□Once Again
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「で、特殊な事とは?」


「せっかちだねぇ〜、今言うから待ちなよ」


ヴィンセントはクロを膝の上に抱きかかえ、自分の肩口に顔を埋めさせていた。
どうせ家に連れて帰るのだから、それまでは遠慮するとかいった事は出来ないのだろうか…
葬儀屋はそうは思いつつも、普段と変わらない平静を装う。



「クロは人間ではなく、悪魔だって事がまず最初かな〜」


「ふうん、人間離れした所もあったからそれは納得いくものだね」


その返事は葬儀屋も予想していたのか、大して反応もなく会話を続ける。
悪魔だろうがそうでなかろうが、そんな事は特に問題はないのだから



「一番重要な事なんだけれどねぇ〜」


悪魔とは魂を喰らい生きる生き物
それが契約によって得られるものや、死神が狩る前に横取りするような食い散らかすようなものまで様々
ヴィンセントもそれについては予想出来てはいたが、葬儀屋の言っていた特殊の意味がまだ掴めない。

つまり、と一旦言葉を切る。

契約を交わすでもなく、自分から魂を喰らう事を知らない子供のようになってしまったクロでは…
何れは餓死するようなものだ。
その言葉にヴィンセントは僅かに顔を歪める
生憎それでどうすればいいかなど、見当もつかない。
もったいぶって中々話さない葬儀屋にも、そんな状況下に置かれているクロの状態にも多少なりとも苛立っていた。



「それで?」


「簡単といえば簡単、まあ性行為に当たるよねぇ〜」


「……」


その言葉に、どういう事なのか確信を持ってしまった。
自分の事を話されている事に、居心地が悪いのかクロをもぞもぞと身じろいだ。


「特に魂の強い人間の精ならば、魂でなくともその子は大丈夫なんだよねぇ」


「特殊、というのは…」


「他の悪魔では有り得ない、という事だよ伯爵。人間の精で生き延びられるというのは本当特殊だと思うねぇ〜」


そんな事が他の悪魔でも可能だとしたら、人間は悲惨な目に遭う事になるだろう。
一番効率がいいのは粘膜に直接受ける事だから、クロのように男の場合はどうしても同性相手に受身になるしかない。
サキュバスならまだしも、インキュバスや普通の男悪魔やプライドの高い悪魔ならそうそう受け入れられる内容ではないが



「ああ、もう一つ」


クロを落ち着かせるようにと、髪を優しく撫でていたヴィンセントに葬儀屋笑いながら話す



今のクロの状態は、言ってしまえば正気とはいえない。
正気の時のクロは今とは打って変わった雰囲気だし、中々にいい性格をしている。
重要性のある会話は当然正気の時の彼でしか解からないし、答えられもしないだろう。



「ああ、それと伯爵に正気の彼から伝言を貰っていたんだよ」


「伝言?」


「『名前はお好きなものを付けていただいて結構です、ファントムハイヴ家の者に限りますが』」



それがどういった意図なのかは、生憎葬儀屋もヴィンセントも解からない。
クロという名に執着がないのなら、何故別の名前を欲するのか
それよりも…



「正気の時のクロは私の所に来たがっていたと?」


「ヒッヒッヒ」


「本当…いい性格をしているよ、君も」


ヴィンセントは彼を欲し、彼はファントムハイヴ家の元へ行きたかった。
そうなれば必然的に、いつかは共になれたという事だ。
色々と言いたい事もあるが、そこは同じ相手を欲した者同士…
分かっていた事だからこそ、敢えて何も言わないべきだろう。


「さて、私はそろそろ失礼するよ」


「はいはい、またねぇ〜伯爵、クロ」





外で待っていたタナカは、再びクロが一緒にいる事に多少驚くが
主人であるヴィンセントの執着ぶりを考えれば、有り得ない事ではないと思った。

今やるべき事は詮索などではなく、家まで無事に送り届ける事以外のなにものでもない。



住人が一人、増えました。




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