MAIN

□Once Again
17ページ/39ページ


呼ばれていた全員が帰った中、セバスチャンは何故か一人残されていた。
葬儀屋には連絡が入れてあるらしく、「ゆっくりしておいで〜」だそうだ。
テーブルに向かい合わせで二人、お茶をしている訳なのだが


落ち着かない



紅茶まで出されて特に変わった事もない、日常的な会話をしているのだが…。
終始楽しそうにしているのがどうしても理解できず、だからと言って聞ける訳もなくただ受け答えするのみ。



「そう、つい最近より前の記憶がハッキリ思い出せないんだ」


「はあ、そうですが」


「辛くはないかい?」


優しくされる事はとてもむず痒く、戸惑うしか出来ない。
それでも焦る事もなく、喋るのをゆっくりと待ってくれる。
居心地が悪いかと聞かれると、全くもってそんな事はないと断言できる
何故かすごく落ち着けて、胸の奥がほわほわ?する感じ。



「あの時の『猫』がまさか君だったとはね、やられた」


「?」


「ああ、こっちの話だから気にしなくてもいいよ」



別に食べなくてもいいのだが、折角出されたのだし…とちまちまと紅茶を口に含む。
ヴィンセントはドアの付近に控えていたタナカと、何かを確認しているのか話している。
たとえ小さな声でも拾う事も出来るのだが、特に必要にも感じないのでしようとも思わなかった。



「さて、クロ」


「はい」


「葬儀屋の所まで一緒に行こうか」



ニッコリ微笑まれて、思わず首を傾げる。
当主ともなればそれなりのスケジュールも組まれ、忙しいのではないだろうか。
なのにちょっとそこまで散歩に行こうといった感じに、少し離れた葬儀屋の家まで?



「ひとりで、かえれますが」


「私が一緒に行きたいのと、あと葬儀屋には話があってね」


「ああ、そうなんですか」


用事があるのなら、特に自分が気にする事もない。
葬儀屋自身、用事があると言ったのは午前だけだった
ならば今から向かう頃には、家にいるだろうと思う。
タナカが馬車を回してくる間、何が楽しいのか理解出来ないが頬を撫でたり髪を梳かれたり…
正直くすぐったいのだけれど、止めて欲しいとも言い辛い雰囲気だったので黙っていた。






葬儀屋の家までの馬車の中、クロにとってはとてもではないが早く着いて欲しいと願わずにはいられなかった。
何故ファントムハイヴ当主ともあろう人が、ただの使いであるクロを構いとおすのか理解できない。
馬車を待つ間された行為は勿論、右の手のひらに指を絡めてきたり
向かい合って座っていたのに、わざわざ隣に座って…
しかもその間隔がほどんどない、腕とか普通に触れる距離だった。


…何なんだろうか。




「おかえりぃ〜」


「ただいまもどりました」


「お邪魔するよ、葬儀屋」


ズカズカと笑顔のまま押し売り屋のように入って来る。
そんなヴィンセントに、葬儀屋は特に何を言うでもなく椅子に腰掛けた。
特に決まりという訳でもないのだが、クロも葬儀屋の隣に座る。

気のせいかもしれないが、ヴィンセントの笑顔は変わらない筈なのに…
纏うオーラが黒いような気がする…。



「話をしに来るのは分かっていたさ」


「だろうね、君は私が何に興味を持っていたか知っていた筈なんだからね」


「ヒッヒッ…まあ、分かっていても小生もお気に入りなんだからさぁ〜」



話が全く見えない
とりあえずこの場にいない方がいいとクロは判断し、紅茶でもいれるべきかと席をはずした。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ