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□Once Again
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案内された屋敷は、やはりどこか見たことがあるような気がしてならない。
必要以上にキョロキョロと見回しているのに対し、タナカは何を言うでもなくただ微笑んでいるだけ
通された部屋は葉巻やらの煙が充満していて、思わずその匂いに眉を寄せる。

薄暗い室内には数人の人間の姿…



「ん?誰だ…葬儀屋ではないのか?」


「葬儀屋は本日急用との事で、代理の方です」



サンドウィッチを黙々と食べていた男が、セバスチャンを見思った事を言葉にする。
いくら成人の男性とはいえ、そのサンドウィッチの量は多すぎるのではないかと思う。
が別に苦しそうにでもなく、パクパクと口に運ぶ事から彼の胃袋はぶらっくほーるというやつなのかと勝手に納得する。

セバスチャンは軽く室内にいる人間に挨拶をし、まだ食べている男に視線を向けた。
男もソレに気づき、サンドウィッチとセバスチャンを交互に見て



「………食べたいのか?」


「あ、いえ…ちがいます」


あげたくないけど、欲しいなら…でも…そんな葛藤がありそうな目で言われても
それに食べ物を食べなくても死にはしないので、別に困りはしない。
そういえばホッとしたように、そうか…と一言言ってまた食べ始めた。
いつまで食べるのか…



「待たせたね」


ガチャ―…


小さく音を立て開いた扉と同時に、少しもし分けなさそうな声がした。
入口を振り返り、ふと目が合った。
目が合った瞬間、何か驚いたように軽く目を瞠った。
首を傾げていると、ふっと笑って視線を逸らした。



「なんだ、知り合いなのか?」


「ああ、うん。まあ私の方は知っているけど」



サンドウィッチを食べていた男が、後から入って来た男の反応が気になり声を掛ける。
そこでふと、彼がファントムハイヴ家当主だと理解する。
何故自分に笑い掛けたのかは知らないが、それより任された仕事をするのが先だろう。










含みある、そして遠まわしな話し方
誰もがそれを普通の事だと受け入れているから、いつもこんな感じなのかと一人セバスチャンは思う。
けど嫌いな雰囲気ではない、寧ろ楽しいと言えるのかも知れない。

終わる事のない怪奇な殺人事件、何一つとして関連性のあるものがなく
警察-ヤード-もお手上げ状態、それで今回女王直々に依頼があったのだという。


今回の事件はどうやら先程サンドウィッチを食べていた男が適任らしく、彼の担当として話は終わったようだ。
あとは自分のするべき事はこの話を葬儀屋にするだけの、簡単な事だ。
周りにいた誰もが、初めて見るセバスチャンが気になるのか
自然を装いながらも、ちらちらと伺い見ている。

必ず最後は左腕を見る事に、そんなに気になるのだろうかと他人事のように考えた。



「クロ」


ふと今の自分の名前を呼ばれ、顔を上げればすぐ傍にいるのは当主…ヴィンセントだった。
にっこりと裏の無い笑みを向けられ、ただ首を傾げるしか出来ない。
面識がないのだが、もしかしたら少し前の自分の知り合いなのかもしれない。



「動けるようになったんだね、身体はもう大丈夫なのかい?」


「あ、はい…べつにふじゆうはしてません」


「そうか、良かったね。ああ…一応自己紹介をした方が良かったかな」



周りにいた誰もがギョッとするが、ヴィンセントは知らぬふり

未だかつてこんな甘い雰囲気を作った事を見たこともなければ、自ら進んで関わろうともしなかった男の変わりようが信じられない。
それも葬儀屋の代理といっても、身元がはっきりしている訳でもないのに
もしかしたら、ヴィンセントは知っているかもしれないが今はおいておく


確かにクロと呼ばれた男は、思わず二度見をするくらいの容貌をしている
見た目を裏切る言動と、欠けた左腕はどうしても好奇心を擽るのは分かる。

だがヴィンセントはそういった類ではない、本当に甘いのだ



「…砂吐きそう」


誰かがポツリと零したが、誰も反応しなかった。







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