MAIN
□Once Again
15ページ/39ページ
ファントムハイヴの当主であるヴィンセントが訪れてから、数日経っても特に日常に変わりはない。
相変わらず『彼』も正気であったりそうでなかったり、様々…最近はどうも正気でいる時間は少ないようだが。
ビーカーに注がれた紅茶に、普段浮かべる笑みとはまた違うものが浮かぶ。
ほんの少し違うと言えば、多少行動するようになったという所だろう。
最近は会話も多少、殆ど出す機会がなかっただけで使えば声帯は機能した。
「あんだーていかー?」
「……ん〜?」
「こうちゃ、おいしくなかったですか?」
正直言おう、会話して行動するようになった正気ではない『彼』は…
見た目とは違いまるっきり子供のようで、舌足らず。
それでも行為になれば娼婦のように誘ってくるのだから…
不安げになっている『彼』は、クロという名前らしい。
本名ではないのは知っているが、まるで犬猫のようだと思ったのは最近
美味しいと言えば、嬉しそうに笑ってポットを片手に抱き締めていた。
左腕がない事を大して支障もないように過ごす事に、大してスゴイとは思わないものの
この言動のせいか、つい子供にするように褒めてあげたいと思ってしまう。
「きっとこんな日常ももうすぐ終わるんだろうねぇ」
「?」
「君ならわかるだろうさ〜」
このままなんて事はありえない、そもそも未来にいる筈の者が過去にいる時点で何かしら未来は変わって行くのだろう。
でも自分は未来を知らないのだから、どう変わっていくのかなんてものもわからない。
だが何かしようという気にはならない、嗚呼本当に…らしからぬ思考に苦笑を禁じえない。
手放すのが惜しいのだが、そうも言っていられないだろう…
「クロ」
「はい?」
「お使いに行ってもらってもいいかな〜」
本来呼び出されたのは自分、けれどクロを考えると今行かせなくは機会はなかなかないだろう。
首を傾げつつも、何をすればいいのか問う姿にかわいいと思うのはもう末期かもしれない。
死神が何を、と言う訳ではないが以前の自分を考えると気持ち悪い。
「行ってもらいたい所があるんだ〜」
「わたしにできるのでしょうか?」
葬儀屋に拾われて、少しずつ『今』の自分というものを持ち始めての初めての遠出
なんとなく、何でも出来るというのは自覚はあるのだが…
「ここ、は」
行くように言われた場所は、とても大きな屋敷でした。
都心とは違い、所謂田舎に分類されるような場所に建てられたソレは
初めて見るのにもかかわらず、何故か心が躍るような懐かしいようなよく分からない感覚がこみ上げてくる。
「いらっしゃいませ、葬儀屋の代理の方でよろしかったでしょうか?」
声を掛けられ其方に視線を移せば、初老のスーツを着た男性が温和な笑みを浮かべたっていた。
見た所この屋敷の執事のようだ、やはりどうしても…
「もっと、ちいさい」
「?」
「あ、いえ…だいりであってます」
小さいって何だろう。
どうも目の前の男を見ていると、もっと小さかったような等と初対面の筈なのにそう思ってしまう。
(だって彼はよくデフォルメ化されていたから…タナカさん)
・