MAIN

□Once Again
13ページ/39ページ


女王陛下からの手紙での依頼は、そうそうあるものでもないのだが…
先日の仕事を終えたところでまた一つ手紙が届いた
それはそれほど難しくはなく、すぐにでも終わらせれるものだと思っていた。

だが決定打が足りず、仕方なくこうして出向いている訳だが




「いるかい?葬儀屋」


「来る頃だと思っていたよー、よぅ〜こそ」



「今日は棺桶の中にはいないんだね」



不気味な程静かに店奥から出てきた葬儀屋に、ヴィンセントはニコニコと大して驚きもせず挨拶を交わす。
その反応は予想していた通りなのか、気にせず温かい紅茶をビーカーに注ぐとそれを差し出した。



「小生の所に来た理由は分っているよぉ〜」


「流石だね、さて…今回も『極上の笑い』というのが必要かな?」


床に棺桶という上に座っているので、必然的に見上げる形になる。
葬儀屋はいつもならば笑って勿論と言うのだが、今日は違った。
椅子の背凭れに寄り掛かり、なにやら考えている様子。



「葬儀屋?」



「ん〜いつもならばそうなんだけどねぇ」





カタン―…





小さな音ではあったが、確かに物音がした。
いつも一人で此処にいる彼の家では不自然だ。
その音に葬儀屋も食べていたクッキーを銜えたまま、奥に視線を移した。



「猫でも飼い始めた?」


「ついこの前拾った猫がね、眠っていたけど起きたようだねぇ」


珍しい。
ただそれだけ思う
他人などどうでもいい、まるで死人が恋人のようだとまで噂のある男だというのに
とてもではないが、猫を可愛がるような性格はしていないと思っていたのだが…



「そうかい、それで?」



「猫が来てからは退屈する事がない、つまりは今小生は満たされてる…」



「今回は特別にタダでいいという事かな」



ニヤリと笑みを浮かべ頷く葬儀屋に、ヴィンセントは内心吃驚していた。
それと同時にそこまで変えた猫が気になるところだが…
今は仕事の最中である事に変わりはなく、気が変わられても困る。
欲しい情報を貰い、早く終わらせてしまおうと話題を変えた。















「行ってしまったけどよかったのかい?」



薄暗い部屋の奥でもぞもぞと動くそれは、猫と呼ぶには大き過ぎる。
被っていたシーツから顔だけ出し、視線を葬儀屋に向けた。



「……」



「ああ、すまないねぇ〜動けないんだった」


おどけた様に言えば、ソレは視線を外すとまたシーツを被ってしまった。
拗ねてしまったような様子に笑いながら、ゆっくり近づいて屈み込む。
指先で抓みシーツをはがせば、何をするんだと抗議するような目で訴えるように見上げてくる。



「仕方がない事だろう?だって君はああでもしなければ保てない…違うかい?」



「……ぃえ」



擦れた声で一言言うと、もう何も言いたくないのか口を閉じてしまった。
ふにふにと頬を突けば、眉間に皺を寄せ不快を露にする。



「本当君は猫のようだねぇ」


何を言っているんだと、軽く目を瞬かせる。



「正気の君は決して懐かない、けれど壊れている時は本当どうしょうもないくらい乱れて甘えて擦り寄ってくる」



「…」



「まあそれも仕方のない事、気にする事はないと思うけどねぇ」




するりと白い頬を撫で、指先に触れた艶のある黒髪を梳く。
まるで血のように紅い瞳は、この行動に抵抗するのも億劫なのか視線を外し下ろされた瞼に隠される。




「面白い事が好きだから、退屈しないで済む選択をしたまでだよ」



悪魔を、拾う…なんて事は






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ