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□Once Again
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薄暗く、灯りもつけずに部屋に佇む一人の男
部屋にその男以外の動くものはなく、怪しげに影は動く。
床に転がる何かの物体に近づくと、どこからともなく鎌を取り出し振り下ろした。






「引退した身だというのに、どれだけ人手不足なんだろうねぇ〜」


銀の髪を靡かせ、手にした書類に視線を落とす。
足元に転がる先程まで生きていた人間
ただ一人喋る男が手にかけた訳ではない、それだけは確かだ。

男は人間ではなく、所謂死神と言われる生き物だった。

ふと部屋の奥へ足を進め、そこで目にしたものに物珍しそうに視線を向けた。



「おやぁーこれまた珍しい」


その声に僅かに反応を示し、ベッドの上でそれは身じろいだ。
ソレと視線が交じ合うと、銀髪の男は笑みを深めた。





*****









「―…ま、ヴィンセント様」



「…あ、ああタナカか」


「いかがいたしましたか?他所に意識を飛ばすなんて珍しいですが」


何でもないと頭を振り、詰まれた手紙をペーパーナイフで封を切る。
内心確かに自分はおかしいかもしれないと苦笑するが、それは別にわざわざ言う必要もないだろう。
ただ一瞬のような邂逅でしかないというのに、脳裏に焼きつく事なんて今まで一度もなかったというのに…

恋煩いなんて生易しいものではない、存在そのものが焼き付けられたといっても過言ではない。
それほど、心をかき乱された。


クロと名づけられたあの青年が、頭から離れない。
無事だろうか、とか…心配する類のものではなく…
自分の手の届かないどこかへ行ってしまったのが、酷く惜しく手に入らないという焦燥感。
まるで子供が玩具を欲するようで、それ以上の執着。



「…全く厄介な事だ」


誤魔化すように仕事をするのを、タナカはただ何も言わず補佐につくだけ…。
まあここで敢えて進言されても困るのだから、流石は我が家の執事…と言うべきか。



「うーん、少し足りないかな」


「馬車を出しますか?」


「そうだな、明日の正午に向かうとするよ」



ただそれだけで、行くべき所は解かったようにタナカは一礼し退室していった。




巡り合うべき存在だったのか

それともまた違う何かか…



ただ何となく、放っておけないと思ったのは確かだ。

あの一緒にいた少年には悪いとは思うが、もし自分が見つけたとしたら返せる保障がない。
そのまま自分の手元に置いておきたいと、思ってしまった



幸か不幸か、あの少年は―…



「これもまた、運命というやつなのかな」


引き出しに仕舞われていた書類には、一枚の写真が貼り付けてあった。
それに写る三人の人物の中、小さな子供はロイスによく似て…



「強くなければ、生き残れない世界に生きるなら…仕方のない事だからね」


庇護下に生きているのならまだしも、自ら足を踏み入れたのなら
その時からそれなりの覚悟というものも必要
奪い奪われるというのは、当たり前なのだから…








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