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□Once Again
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きっと今頃あの子供は落ち込んでいるだろう、いや…絶望を感じているだろうか。
だがこれでいい、身代わりにしてしまうくらいなら突き放せばいい。



首輪を嵌められ、右手首を首輪と繋ぐ鎖で繋がれた。
以前ならばこのような屈辱的な格好するなど、考えられもしない…命令でない限りは
酷く重い身体に、動く気力も沸かない
最後に交わした契約のあの子供が、いなくなってしまってから…

記憶すら曖昧で、正気でいる時間も少ない。
何も覚えていない間、自分が何をしているかなんて興味もない。




「そろそろ時間だな」



薄暗い部屋の隅で、誰かの話し声がする。
閉じていた瞼を上げ、目だけで見える範囲見渡した。
まるで動物を入れるような檻には、見知った子供が数人いた。
ついでとばかりに捕まった、という所だろうか…。

怯え互いに身を寄せ合う

自分達の末路がどうなるか、想像出来ないのだろう。
それは買う人間次第といった所だ



「……はぁ」


きっとこれがあの小生意気な例の子供か、身代わりにしてしまった子供なら逃がしていただろう…
別に泣いているのを見て痛む心など持ち合わせていはいない



「とりあえずガキ共からだったな」


「ひぃっ」


「やだ!おうちかえしてっ」


抵抗すれば暴力を振るわれ、無駄に疲れるだけだ。
その小さな身体では、己の身一つ守れやしない貧弱な生き物。
小さな悲鳴を上げながらも、檻ごと何処かへ連れて行かれる。
それを何も感じぬ瞳で見送って、また目を閉じる。


何もこれは初めてではない。


あの赤い死神を見た最後、多少空気の違うこの国に来て何度か売られ買われの扱いはされてきた。
あまり覚えていないのだが、擬似的な主従を強いられていたのは確かだ。
最も彼等は悪魔とは知らないままだったけれど

少しだけだが思い出すと、嫌悪感と不快感が込み上げてくる。
あの豚のような肥えた人間に好き勝手されていたのは、流石に…


…少しずつ意識が遠のいていくのに、舌打ちする。
また『覚えていない時間』が来るのだろう


















「うーん、何気に知っているんだよなあ」


ボソっと誰にも聞き取れない程度の呟きで、ヴィンセントは笑う。
開かれたパーティーはとても待ち望んでいたもので、思ったより時間が掛かったなと軽く溜息を吐く。
表の会場とは違い、多少狭く薄暗い地下の会場。
誰もが目元を仮面で隠し、素性を隠す。

正直言えば、先程の表での衣装と顔を覚えていれば誰が誰かなど分かるのだが…。
まあそれはこの場を楽しむ者達には、あまり関係のない事。
自分のように違う理由で来た者を除けば…




「大変お待たせいたしました、只今を持ちまして始めさせていただきます。私司会も勤めさせていただきます主催者の―…



漸く始まったか…
ヴィンセントは後ろの方の席に腰を下ろし、ステージを見下ろす。

挨拶を終え、軽い会話を挟み漸く商品がステージに運ばれてくる。
檻に入れられた数人の子供、恐らく一度は会った事があるのだろうが興味のない事は覚えない主義だ。
当然ながらヴィンセントは檻にいる子供を覚えていない。



「愛玩するも、バラして売るもお客様のご自由となっております。多少薄汚れていますので最初の金額は低めに始めましょうか」


色んな嗜好の者が集まる会場なのだから、バラす目的でなくとも死んだ方がマシと思う扱いをされるかもしれないな…
等暢気に考えている。


「運がいいんだよね」


あの子供達
この程度で心を痛めていたら、仕事などできはしない。
だが今回は自分がいるのだから、あの子供達はとても運がいい。
例え落札されてもすぐ会場を出るわけでもないし

見目のいい奴隷であれば一人分の金額、その金額で子供達は落札された。
泣いて怯えて震えているのを見れば、多少可哀相かな…とは考える。
落札者を見れば、これまた見事な豚…ではなく立派な贅肉のついたおじ様だった。

あとはそれなりの見目の人間が、商品扱いとして落札されていく。
飽きてきたな…なんて考えながらも、ステージからは一応視線を外さない。




「お待たせいたしました、此方が本日の目玉商品になります。濡れた鴉の羽のような艶のある黒髪、まるでルビーをはめ込んだような赤い瞳…とても珍しくそしてこの美しさは皆様おわかりでしょう!」



興奮気味に司会者が紹介する商品に、ヴィンセントは微笑む。
数日前見たときと変わりない
一番の商品として扱う事からか、綺麗に身を整えられていた。



「多少残念ではありますが、左の腕は欠けておりますがそれを入れたとしても…これは手に入れたいと思いませんか?」


会場内が異様な空気に包まれ、気持ち悪いと感じながらも笑みは消さない。
初期設定金額も高額でありながらも、どんどんつり上がる金額に苦笑する。
人間を買う趣味は全くないが、確かに金を出してでも欲しいという気持ちは分からないでもない。
要は自分も彼相手ならばここの人間と大差ないといった所か。




「そろそろ…かな」


遠く微かに聞こえる足音に、さり気なく席を立つ。









バンッと音を立て閉じられていた扉が勢いよく開かれ、制服に身を包んだ男達が雪崩れ込んで来る。
会場はパニック状態となり、一斉に逃げ惑う。
それはそうだ、状況を理解したとしても選択は逃げるしかないだろう。
完全に出入り口をヤードに塞がれ、大半が諦めた様に放心している。






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