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□Once Again
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上流貴族や、お得意様など…
そんな家々に届けられた手紙には、ファントムハイヴ家当主の婚約のお知らせがかかれたものだった。
それを見たヴィンセントを狙っていた女性たちは悲痛な叫びを上げ、涙に枕を濡らす者の、相手の女性への憎しみに身を落とす者と様々だ。
勿論心よく思わない者も多いわけで、それについては実害は今の所ない。



「実に不愉快ですね、婚約というのならば浮かれるとでも思っていたのでしょうか」


セバスチャンは冷たく目を細め、足元に転がる人間だったモノを見つめる。
漸く婚約をとりつけたというのならば、それほど御眼鏡にかなう女性と出会えた
浮かれて油断しているところを、と狙ったのだろうが…
ヴィンセントもレイチェルも、所謂共犯…同じ思いを抱えた者同士である。
浮かれるなどといった事はまったくなかった。

セバスチャンはといえば、あれから一時的に記憶はなくなったものの目が覚めれば然程時間は経っていなかった。
だからこそ、こうしてファントムハイヴ家にとっての邪魔者を始末できたのだが。


「あらいやだ、色男発見しちゃったワ〜」


「…」


場に似つかわしくない明るい声、そしてそれは聞き覚えのあるものだった。
鬱陶しげに声のした方を見遣れば、赤い色が視界に映る。

グレル・サトクリフ

この死神を見たのを最後に、自分は此処にいた…つまりはこの男の仕業となるのだが。
ヴィンセントがいるという過去に、送るという信じ難い事を仕出かした。
そう一死神ができる事でもない、何故そうしたのかセバスチャンには理解出来ないし
今のこの時代にいるグレルに聞いたところで、分かるはずもない。



「死神、ですね」


「そうヨー、アナタは悪魔ね!嗚呼!!運命の出会いをしたかと思えば敵同士だなんてっアタシ達なんてロミオとジュリエットなのかしラ」


自分で自分を抱きしめ悶える変態に、セバスチャンは心が冷えていくのを感じる。
そうだ、自分をここに送ったのは未来のコイツであり目の前のコイツではない。
処罰なりなんなりされるであろうグレルではないのだ…


「鬱陶しいですね」


ボソリと呟き、ため息を吐く。
グレルはと言えば、リストを眺めながら転がる死体を見ている。
セバスチャン自身から敵意を感じないからといって、敵同士とまで言いながら些か不用心ではないだろうか…

そこでふと顔をあげたグレルと目が合う。


「悪魔なのに魂を食べないのかしラ?変わってるのねっそこも素敵でますます惚れちゃうワ☆」


「…不味い魂を食い散らかすのは飽きましたので」


「…その割には、空腹感半端なさそーだけどぉ?…ぎゃっ!」


「いつまでも話て頂いても結構ですよ?こちらは構いませんし」


「何が構わないよ!顔を狙うなんて…失礼しちゃうわネ!レディーの顔ヨ!?やめて頂戴!」

戦闘体勢に入るグレルに、名乗る暇を与えずノす為に攻撃を仕掛ける。
邪魔をするなら徹底的に排除するだけだ。

どこかうっとりしたグレルに、セバスチャンは呆れるしかない…
M気質は昔からだったようだ。

だが無駄にこうして時間を掛けるのも、今のセバスチャンからすれば状況は良くはない。
動きが鈍るセバスチャンに、グレルは怪訝な―…


「ふげっ!?」

油断した所に綺麗な長い足が、グレルの顔面にめり込んだ。
顔だけはヤメテと言ったのにと、思わず痛み以外の涙がポロリと零れた。
倒れ込んだ所を、遠慮する事もなく殴る蹴る…端から見れば一方的な暴力他ならない。


「…?」

グレルは必死に顔を庇っていたが、急に止んだ攻撃に恐る恐るセバスチャンを見遣る。
瞬間自分に向かって倒れてくるものを、反射的に受け止める
重みに傷が痛んだが、倒れてきたものに既にボコボコな顔では今更だが…ポカンと間抜け面を去らしてしまう。


「え?ち、ちょっと何ヨ!何でアンタが倒れてんのヨ!?」


腕の中にいたのは先程まで戦っていた男
眠っているように目を閉じ、身動きすらしない…。
グレルは状況を忘れまじまじと観察をしてしまう

整った顔に、艶やかな黒髪
思い出すは鬼畜としか言えない暴力、氷のように冷たい汚物を見るような血のような赤い瞳…
グレルの体をゾクゾクとした電気が走り、下半身が暑くなる


「アタシにこんな酷い仕打ちをする男なのに、イヤだわ惚れちゃったじゃナイっ」


お持ち帰りしたい、けど状況がそれを許さない。




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