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□Once Again
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その会場内にいた全員がヤードの手によって、捕らえられ連行されていく。
彼等にこの場所を教えたのは、勿論自分だ
人身売買は犯罪、それも今回の主催者の今までのパーティーはとても質が悪い。
どこでもそうだとは思うが、普通に暮らしている人間までをも売り物として誘拐してくるのだから…
目をつけられたが最後

今回の自分の仕事はそんな主催者である男の徹底的な証拠を見つける事。
ああ見えて用心深い男はヤードの情報網やら色々と掻い潜って生きてきていた
そんなヤードに手のつけられなくなった所、女王陛下から仕事の手紙が届いたという事だ。



「こうしてる見ると呆気ないな」



捕まる様は大して他の人間と変わりもしない、当たり前だろうが…

あのジェフの所にいた彼を見て、ヴィンセントは今回の仕事は楽に片付くと確信していた。
度々低俗な中流貴族の間での噂、それが彼だった。
ジェフも含め、傍にいたあの少年も守っている為捕まえようにも出来なかったと嘆く
そう簡単に口外する中流貴族は、とても滑稽だった。

ただでさえジェフの所の子供達にボコボコにされた、醜い顔になっているのに…



「ん?」


騒がしい会場内の隅にいたのだが、ふと気づく。


…彼がいない



今回の仕事を片付ける為に、彼には悪いが餌になってもらったようなものだ。
その彼を侘びも兼ねてジェフの元に送り届けようと思ったのだが、その姿が見当たらない。
顔には出ていないものの、多少焦っていたのは認めよう。
檻の中で鎖により繋がれていれば、逃げようにも逃げれない
そんな状態だったというのに、どこに消えたというのか…




「あ…お前」


小さく掠れた声に、視線だけを其方に移せば彼の傍にいた子供がいた。

前に見たときより服は汚れボロボロで、驚いたように見上げてくる。



「隠れていなさい、まだ騒がしいからね」


「……クロ、は」


どこに繋がっているかなんて自分には関係のない事だが、子供…ロイスは床に人為的に作られた穴の中。
そこに身を屈めながら多少睨むように、ヴィンセントに視線を向けながら問いかけた。

生憎問われた事に対しての答えはもっていない
見当たらないと小さく言えば、息を呑んで目を見開く。
此処にいなかったら何処かなんて、互いに検討もつかないのだから…。



「とりあえず、お前が手引きした…訳じゃないんだよな」


「そんな事をする相手にジェフは君達の家に連れて行かないと思うよ」



その言葉を聞き、ロイスは穴の奥に入ると床をハメて消えた。
此処にいないのならいつまでもいても意味がない
ヴィンセントも無駄に時間をくう訳にはいかない、ヤードの…特にアーサー・ランドルは煩く面倒な男…

そうと決まれば長居は無用
いなくなった彼が気にならないという訳ではないが、此処にいる理由にはならない。
騒々しい会場を後にする





「お疲れ様です、お迎えに上がりました」


「時間丁度だね、タナカ…少し疲れてしまったから少し急いでもらっていいかな」


タナカは馬車のドアを開け乗り込むのを確認すると、にこりと笑って軽く礼をしドアを閉める。
仕事がひと段落したからといって、ヴィンセント個人の仕事が終わった訳ではない。
家に帰っても机に積んであるのは書類の束

少しでも早く帰って終わらせてしまいたいというのが本音だ
動き出した馬車から窓の外を眺めながら、そっと息を吐く。




















「ジェフ!!」


「…ロイス?」


あの後心当たりのある場所を教え、駆け出したロイスは同じように切羽詰った表情で戻ってきた。


「クロ…ケホッ…いない」


軽く咳き込み息を整えつつ、なんとか言葉を紡ぐ。
そんなロイスの様子を見つつ、アノ場にいないのなら自分でも分からないと告げればロイスは俯いたままぎゅっと拳を握り締めていた。

ロイスにとってクロは自分が一緒にいなければならない存在
そう思っている限り、この子は探し続けるだろう。
一度決めたら何を言っても聞かないのは、嫌というほど分かっている。



「あそこにいんだ、俺達の家にきた貴族」


「…ああ、なるほど。けどアイツはクロとは無関係だ」


「…やっぱ、そうなのか?」



嘘を言っているようには見えなかったが、彼がクロを連れて行ったのなら望みはまだ高かったのに。
闇雲に探しても見つかりそうにないのは、ロイスでも分かった。
いつも隣にあった温もりがないというだけで、こんなにも違うものなのか…

喪失感

気づけば自分にとってクロという存在は、どれ程大きくなっていたというのか…
いなくなった事でポッカリと胸に穴があいたようだ。




「クロ…」


絶対見つけ出してみせるから

そうしたら…今度こそ守り抜いてみせる








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