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□Sweet Valentine
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チョコレートが食べたい


そう言った主人の為に厨房でせっせと作っている訳だが…
世間はバレンタイン一色に染まっている
日本の菓子業界の考えたイベントごとき、浮かれるような子供でもないというのに…



「セバスチャン」


「坊っちゃん?いけません、このような所に「此処じゃないと出来ないからな」…はい?」


言葉を遮られゆっくり近づいてくる、何故か悪寒が走る。
この笑顔は…自分にとってよくないことを考えている顔だ
回避しようと思えば出来るのだろうが、最終的に『命令』となれば自分に拒否できる事はない。



「早速作っているな」


ただチョコレートと言っても、凝ったものではなく至ってシンプルなものがいいと言われたが
それでも多少なりとも手を加えたいもので、いそいそと製作に勤しんでいたというのに…
湯せんで溶かされたチョコレートを指ですくい、舐める。
どうせ駄目だと言った所で、この小さな主人が聞く訳がないと分かっている為何も言わない。


「…甘みが足りない」


「…これ以上甘くしろ、と…?」


正直自分には美味しいとは思えないのだが、流石にこれ以上甘くしたら人間の味覚でも相当だと思う。
想像すると少し気持ち悪くなる



「屈め」


「は?」


「屈めと言ったんだ、さっさとしろ」


一体何を…
不機嫌そうに言われては、早く行動しなければ余計に機嫌が悪くなる
内心溜息を吐いて、屈むとタイを掴まれ息が詰まる。


「ぼっちゃ…ん、な、何し…んぅ」


唇に何かを塗りつけられたと思えば、間を開けずキスをされる。
舌を差し入れられ、トロリとした液体が入ってくる
口内に広がる甘みに、先程塗られたのはチョコレートだと理解する。


「っは、あ…」


漸く離され呼吸を整える。
目の前にいるシエルの口元も、自分とのキスでチョコレートがついていた
視線に気づくと笑みを浮かべ、ぺロリと舐めとった。
タイから手が離れたと同時に、パッと身を起こす。
勿論視線も外したまま


「…何なんですか、いきなり」


「別に、固形になる前のチョコレートも味見しようと思っただけだ」


美味しかったぞ、と一言残し、さっさと厨房を後にした。
あっさり引いた事に、暫し呆然とするがハッとし頭を振る。
これで終わりならばそれはそれでいいではないか、また色々されれば仕事が滞る



「…はあ」


今さっきの出来事は頭の片隅に追いやる
でないと仕事が出来そうにない…























「失礼致します」


「…出来たのか?」


書類から顔を上げないまま、声を掛ける。



「…何をしている、早くしろ」


「はい?」


「お前からのチョコレートだろう?」


ならお前が食べさせろ
勿論、どうやるかは教えただろう…?
口端を吊り上げ浮かべる笑みは、相変わらず年齢にそぐわないものだ。
いっそこの場から逃げたいと思ったのは、何も一回や二回ではない…


綺麗にラッピングされた箱の紐を解き、蓋を外す。
我ながら納得のいく仕上がりに、満足だ。

現実逃避を図りたいと思いつつ、一つ摘み上げそれを自分の唇で挟む



「んっ…ふ」


何が悲しくて口移しでチョコレートを食べさせなければならないのか…
鼻に掛かったような息に、羞恥を覚えるが気付かれるのも癪なので深く舌を絡める。
そっと目を開けると、ばっちりと目を開いて自分を見る青い瞳と視線が合う。
まさか目を開けているとは思わず、咄嗟に身を引こうとしたが当然それを許す筈もなく



「んぅ!?ふっ…ぁ」


後頭部を手で押さえつけられ、逃げないように固定された
一瞬でも気を逸らし油断したせいで、いいように翻弄される
漸く開放された頃には、情けない事に息が上がっていた。

ぺロリと唇を一舐めされ、ビクっと反応してしまった。



「…いかがでしたか?」


「ん、まあ流石と言うべきだな。美味かったぞ」


これで満足しただろうと、そっと立ち上がろうとし腰に手を回される



「坊ちゃん?」


「何処にいこうとしている、まだ…だ」


チョコレートなら食べたし、大体いつも最初の時のみだというのに…

気付かぬフリをしたい



「折角なんだからお前も味見してやろう」


いえ、坊ちゃん…味見で済ます気全くないでしょう


「大体、チョコレートは結構前に作れていただろう。なのに『今』持ってくるものだからお前も解っているんじゃないのか」


「…はぁ」


本来ならばもう就寝の準備をする時間
それにこんな時間に何かを食べるのは、あまり好ましくはないと思っている。
あからさまに溜息をつけば、フンと鼻で笑ってタイを引いてベッドへと向かう

タイは決してリードじゃないんですが…
そう言いたいのを呑み込んで、黙って従う



「本当は期待していたんだろう?昼間のアレはさぞ堪えただろう」


「世間のイベントに、態々合わせるお優しい坊ちゃんに私も合わせたまでです」


「フン…素直じゃないな」


啼かす
低い声で囁かれ、ベッドに押し倒された



「…この分ですとホワイトデーを期待しても?」


「…さあな、もう黙れ」






深い口付けと共に


日常の時間は終わりを告げ


甘いひとときへ―…






end
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